SUZURI・minne事業部 minneグループのtossy(@tshk_sakai)です。 2026年10月よりシニアエンジニアになりました。このエントリーでは、AI・MLのシニアエンジニアとして何に取り組むのかを、これまでの経緯とあわせて紹介します。
AIに任せ切る仕組みづくりで品質とスループットが落ちないサービスへ
シニアエンジニアとして、AIに任せ切る仕組みづくりによって、minneを少人数でも品質とスループットが落ちないサービスへ転換します。
人が担ってきた仕事をAIに任せるとき、難しいのは「AIを使うこと」そのものではありません。どこまで任せてよいかを決めることです。AIの出力には誤りが含まれます。そのため、任せ切るには次の3つを仕組みとして作り込む必要があると考えています。
- どこまで任せてよいかを、定量評価で見極める
- 誤りを前提にしたガードレールと計測を、本番品質で作り込む
- 実績に基づいて、任せる範囲を段階的に広げる
1つ目は研究で身につけた「AIの不確実性を定量評価し、判断する力」、2つ目はWebエンジニアとして身につけた「本番品質で完遂する力」です。3つ目は、この2つを掛け合わせて回し続けることで実現できます。精度を評価できても本番へリリースできなければユーザーに価値は届きませんし、リリースしたとしても評価できなければどこまで任せてよいかを決められません。私の強みは、研究開発とWebエンジニアの両方の経験を踏まえて事業への貢献を行えることです。この強みを活かし、AIに任せる範囲を広げていきます。
これまで
研究開発からWebエンジニアへ
私は2021年5月にペパボへ入社し、ペパボ研究所で研究開発に取り組みました。業務と並行して九州大学の博士課程で自然言語処理の研究を続け、2026年9月に博士課程を終え、博士の学位をいただきました。働きながら学位を目指した経験は、きのこカンファレンスin関西で発表しています。
ペパボ研究所では作品の特徴を分類するモデルのオフラインでの定量評価に取り組みました。しかし、サービスへの導入には至らず、ユーザーへ価値を届けられませんでした。オフライン評価で見えない部分はリリース後にしかわかりません。この反省から、評価だけを追うのではなく、ガードレールや計測を先に用意してリリースを止めない設計へと考え方を変えました。
2024年5月からはminneのWebエンジニアとして、CS業務の効率化などの開発に携わり、人の目視業務をAIへ任せるようにしていきました。
AIに任せる対象と範囲を広げる
2026年は、部門として「AI前提」へ転換する動きを推進しました。
AI自律マージ率の向上を掲げ、チームで取り組みました。自動マージの対象をリスクの小さいPRに限定して運用を始め、人間のレビュー結果をAIのプロンプトへフィードバックする仕組みで判定精度を計測しながら、実績に基づいて対象を広げています。 AIの判定が妥当だったかを後から検証するバックテストも整備し、月1回の頻度で実施しています。 minne全体の取り組みと現在地は「AI前提のプロダクト開発組織を目指して、minneの2026年の現在地」にあります。
また、2026年8月には、購入者が会話を通じて作品を探すことができる「minneコンシェルジュ」を公開しました。 Amazon Bedrock AgentCoreとStrands Agentsを用いて開発しました。ここでも「AIに任せ切る」ための設計を意識しました。
- 会話から出てきた条件をLLMで検索APIの引数に変換し、決定的な入力とする
- Bedrock Guardrails、WAFによるレート制限などのガードレールを作る
- コストと利用状況を計測できる状態とする
- 会話品質を評価する
設計の詳細は「Amazon Bedrock AgentCoreでAIエージェント「minneコンシェルジュ」を開発しました」で紹介しています。
ペパボのエンジニア職位制度
ペパボのエンジニア職位制度は立候補制です。「作り上げる力」「先を見通す力」「影響を広げる力」の3軸で評価され、立候補資料の提出と面談を経て昇格が判断されます。
私は立候補資料で、自分の専門領域を「AIに任せ切る仕組みづくり」と定義し、上で紹介した取り組みをこの領域の中で整理しました。これまでの評価では「理想像を示す部分」と「シニアとしての完遂」が課題としてありました。そこで2026年は、理想像を示すこと、前例のない機能を本番公開まで完遂すること、技術的な内容を社外へ発信することを意識して取り組みました。
今回の立候補では、次のフィードバックをいただきました。
最近では、素早く意思決定し実装からリリースまでできている点もとても良いと思います。研究開発で得た精度評価の知見を活かしながら、まずリリースしてオンラインでの評価を通じて改善するという、事業成果を重視した進め方ができています。課題設定から実装、リリース後の効果測定までを一貫して担い、コスト削減や業務効率化だけでなく、GMV向上まで見据えている点もシニアエンジニアとして高く評価できます。(抜粋)
これまでの自身の課題を踏まえた「評価だけを追うのではなく、ガードレールや計測を用意してリリースする」という進め方を、認めていただけたと受け止めています。
AI・MLシニアエンジニアとしてのやっていき
フィードバックでは、次のような期待もいただきました。
今後は、minneで実践したAI活用や業務自動化の知見を、他事業部へ広げていくことを期待します。AIOpsについても、minne内の自動化にとどまらず、AIに任せる範囲や評価基準、運用体制を整理し、ペパボにおけるAIOpsを全社で実行できるように影響を広げていきましょう。
また、運用効率化によって生まれた時間を作家向けの価値提供や売上向上につなげていってください。AI活用を守りの改善だけでなく、minneの次の事業成長を生み出す取り組みへつなげることを期待します。(抜粋)
「人間がすべてを目視し、実装し、レビューする」構造のままでは、初動の遅れやスループットの低下が避けられません。 AIに任せられる部分は任せ切り、人はより価値の高い仕事に時間を使える構造へ転換していきます。
AIに任せ切る運用を、ペパボのAIOpsへ
「Agent Ready: 技術部が挑むAIエージェント前提の技術基盤づくり」でも掲げられているように、インシデント発生時には、First ResponderとしてAIエージェントが対応することを目指します。 また、アラート対応もFirst ResponderをAIへ交代させていきます。 そして、これをminneの中だけで終わらせません。どこまでAIに任せるか、任せた結果をどう評価するか、誰がどのように運用するかを整理します。それを他事業部へも展開することで、ペパボ全体でAIOpsを実行できる状態を目指します。
ユーザーへの価値と事業成長へ
運用の効率化は、それ自体が目的ではありません。浮いた時間を、作家さんへの価値提供やminneの売上向上につなげてこそ意味があります。minneコンシェルジュのようなAIエージェントで購入者と作品の出会いを増やし、利用状況や購買への寄与を計測しながら改善を続けます。応答品質の評価と改善のループを運用に組み込み、オンラインでの評価を通じてGMVの向上につながる体験へ育てていきます。あわせて、作家さんの活動を支えるAI前提の新しいサービスづくりにも取り組みます。
AI前提の組織へ
エンジニアの役割を「実装しレビューする人」から「AIに任せる範囲の線引きを設計し、最終判断を担う人」へ移していきます。「AI前提のプロダクト開発組織を目指して、minneの2026年の現在地」でも紹介されているように、Webとモバイルの越境を進めます。Webとモバイルのエンジニアが、AIを介して互いの領域まで自己完結できる状態をつくり、各自の守備範囲を広げます。そのうえで、AIの不確実性を定量評価し判断する知見を、他のパートナーが使える形で共有し、minneをAI前提組織のモデルケースとして社内外へ発信していきます。
おわりに
研究で身につけた評価する力と、Webエンジニアとして身につけた完遂する力を掛け合わせて、minneをAIに任せ切れるサービスへ転換し、その仕組みをペパボ全体へ広げていきます。そして、AIで生まれた時間を作家さんへの価値とminneの成長へつなげます。取り組みの過程で得た知見は、引き続きテックブログや登壇で発信していきます。