技術部プラットフォームグループでチームビルディングをしている@bobです。 今回はスクラムを導入するにあたって、読書会が効果的だったのでそのプロセスと成果を紹介します。
スクラムを導入するにあたっての課題
私が所属するプラットフォームグループ(以下、PFG)ではチームが二つに分かれています。
ここでは Aチーム
と Bチーム
と定義します。私はBチーム
に所属。
Aチーム
はスクラム導入済みで Bチーム
はこれからスクラムを導入しようとしているところでした。
スクラムを導入する理由はPFGのチームビルディングにあたってDX Criteriaのチーム評価項目
を基準に改善ポイントを洗い出すと以下のウィークポイントを発見したからです。
※ 中期的なエンジニアリングマネジメントの方向性のベンチマークにDX Criteriaを活用
1.2 チームビルディング
… インセプションデッキやプロジェクト憲章(チャーター)に相当する設定がない1.6 経験主義的な見積りと計画
… プロジェクト予測の正確性を高めていくための計画管理が必要1.7 ふりかえり習慣
… KPTを使ったふりかえりをしていたが議論が停滞することがあり、改善余地あり
このとき、Aチーム
はスクラムを導入して半年が経過しており、上記3点を改善する成果が見え始めていました。
そこでBチーム
も同様にスクラムを導入すれば本課題を解決できるのではと考え導入を検討。
実際にAチーム
のスクラムに体験で参加してみたところ、用語とルールの理解が必要だと判断し、読書会開催で解決を試みることにしました。
読書会の開催
選書は、 SCRUM BOOT CAMP THE BOOK【増補改訂版】 スクラムチームではじめるアジャイル開発です。 読んでいてわかりやすく改定前の書籍も読んだ経験と、スクラムに詳しい人から聞いて選択したのが決め手です。
背景を説明してルールを明確化
以下の背景をまずはGitHubのIssueを用いて説明しました。
技術部PFGにて。
日本CTO協会監修のDX Criteariaをチームの[評価項目]をベースに底上げを狙っている。
この項目の中で弱みと判断した、 ふりかえり習慣 と チームビルディングの今期強化が不可欠と判断。
上半期から一部のチームではスクラムを導入している。
私の参加チームでも該当項目の強化の際にスクラムの考え方が重要と判断。
徐々にそのマインドを導入していく中で、スクラムの用語を今一度理解しようと読書会を試みる事を決断した。
その際に読書会という方式をとる事で、広く参加者を募ることにした。
続いてどんな読書会でどのように進めるかを事前に明記します。
- 本の目次と読む予定の項目を書き出し、読みやすいボリューム感であること
- 開催日程や記録場所に開催参加最低人数を記載して読書会のルールを明確化
- 参加資格として書籍の事前読書が必要だが、書籍を持っていなくても参加は可能
読書会なのに本を持っていなくても参加可能としたのは、一度参加して継続するかどうか決めてもらってから購入検討で良いと判断したからです。 このように、あらかじめIssueに文書を記載しイメージを共有してから参加メンバーを募ることで、読書会に参加しやすい場を整えました。
さらに参加者を集める工夫
メリットを添えて読書会参加の旨味を伝えることも大事です。 実際の募集にはIssueに以下のまとめを掲載しました。
・スクラムのいいところ把握やスクラム自体を取り入れる追体験ができる。
・なんとなーくの理解から用語レベルで把握できる。
・プロダクトオーナー(PO:Product Owner)やスクラムマスター(SM:Scrum Master)の役割がわかる。
そして、読書会において一番大事なことは継続できるかということです。 本書は漫画も掲載され、大事なところは文章に強調表示されているので毎週30ページは読めるだろうと判断しました。 毎週継続できれば、2,3ヶ月で終わる読書会だと目次ごとに事前に読書する範囲を伝えました。
ただ、それでも負担が高くならないような工夫が必要です。 Googleカレンダーで開催日を共有して皆が気づくように設定。祝日やイベントが重なった時はずらさずに中止と調整負担も抑えました。 また、当日の事前読書を忘れても参加OKとしたり、読み進めるのが大変だという意見を受ければ読書会で扱うページ数を減らしたり途中調整も行いました。
これで、だいぶ気軽に集まることができる場の用意ができました。 読書会当日はGoogle Meetで集合。 事前に連絡した事前読書の範囲をベースに読書会の開始です。
読書会は知識構成型ジグソー法を用いる
読書会の方法はいろいろありますが、弊社で過去に開催した読書会より、知識構成型ジグソー法を採用しました。 この方法を参考に、1時間の読書会の中で以下の時間配分を用意しました。
- エキスパート活動 … 20分
- ジグソー学習 … 20分
- クロストーク …. 20分
聞きなれない言葉が並ぶのでそれぞれのやり方を順番に解説します。
エキスパート活動
全員集合後、X班とY班の2つに班分けをします。 説明用に4人集まったと仮定してA,B,C,Dさんの4人がいるとします。 このとき、X班にA,Bさん。Y班にC,Dさんと割り振り、それぞれの班で読んできた本の内容を話し合います。
Scene No.07|詳細な計画を立てる|ちゃんと計画できたかな?
Scene No.08|素早くリスクに対処する|スプリントは順調かな!?
例えばこの目次の範囲を読むと決めた場合は X班がNo.7を担当し、Y班がNo.8の内容を話し合います。 話し合いはSlackのcallを使ってみました。 Notionに話し合あった内容をリアルタイムにまとめておきます。
参加人数は最低4人というルールを用意したのですが、このエキスパート活動を行うのに必要な最低人数を確保したかったからです。
ちなみに、だいたい8人前後のメンバーが参加する会となり、結果的にはPFGのAチーム
とBチーム
のメンバーは全員参加しました。
ジグソー学習
エキスパート活動後は、班のメンバーの入れ替えを行います。 それぞれの班のメンバーを半分ずつ交換します。 さきほどの組み合わせなら以下に班分けします。
before:X班とY班
X班: Aさん、Bさん
Y班: Cさん、Dさん
after:新たにL班とM班に分ける
L班: Aさん(元X班)、Cさん(元Y班)
M班: Bさん(元X班)、Dさん(元Y班)
このとき、 L班であればNo.7の読書内容を話したAさんとNo.8の読書内容を知っているCさんがいる状態になります。 このAさんがBさんにNo.7の話をし、BさんはNo.8の話をAさんにむけて発表することで、違った角度での学習を期待します。 口頭で議論しながら同時にその内容を文書にまとめておきます。
クロストーク
参加メンバー全員(A,B,C,Dさん)が同じ場所に集合し、ジグソー学習で班ごとにまとまった内容を順番に発表します。 L班を代表してAさんが発表。M班ならDさんと事前に発表者を決めて、参加メンバー全員が話に耳を傾けます。
この話を通じてさらなる理解を深めて、ときには議論をして読書会は終了です。
この方法の注意点としては、一連の流れをファシリテーターの人があらかじめ説明して促す必要があることです。 そこで、あらかじめこのやり方自体も一度説明した後は、テンプレート化したフォーマットでやりとりができるように記載する場所も指定するとよいでしょう。 今回はテンプレートを簡単に用意でき、文書に直接コメントできるNotionがここでも活躍しました。
自分ごと化
読書会の意義は読書を通じて「自分ごと」に落とし込むことです。
知識構成型ジグソー法を使えば、他者を通じて本を読んだ理解を示したり、内容の感想を話し合あったりするので自社でどう活かせるかまで考えが発展します。 輪読会でただ本を読むだけの場になることを避け、主体性のある学習を可能にする場を整えることができます。
開催時間と問題点
第1回は2020年10月6開催。第8回は2020年12月15日と予定した3ヶ月以内に終えることができました。 最終回となる題9回は、みんなで読書会の感想を一人ずつ発表してもらって、読書会で学習したことをスクラム活動に活かす決意を高めました。
実際にやっていく中で起きた問題点としては、たまたまイベントが重なり二週間以上回が開いたことがありましたが、人数が足りなく中止になることはありませんでした。 これは最低参加人数を決めるとともにスクラムをこれから活かすメンバーは固定メンバとして参加しようと呼びかけた結果でもあります。
はじめは、ボリュームが多いと感じた人が出てきたため途中からペースを変更しました。 今日読む範囲の事前読書が間に合わなかった人がいれば読んだことのある人がいる班に入って記録や意見を出してもらいました。 これは継続を可能にする場を用意することを重視したことで、問題対処ができたのだと思われます。
読書会を無事に完了して見えてきたこと
今回はスクラム経験者とスクラム未経験者がいたことに加えて、知識構成型ジグソー法による知識共有が盛んに行われたことで実践を意識できました。 最終回で話した内容より感想を抜粋しつつ簡単にまとめてみます。
- スクラムのやり方に迷った時にこの本に立ち返ることができそう
- 大きく見積もりつつも目の前のタスクの詳細化にも気をつけたい
- スクラムに触れたことがなかったが、単語が頭に入ってきたのであとは実践次第と思えた
- 改訂版前の本を読んでいたので、改定後の違いに気づくこで新たな発見を得た
- 単語の脳内同期は読書会のメリットだと感じた
- 気構えや思想が学べた
また、スクラムを経験しているAチーム
はスクラムのトータル時間よりプランニングの時間を増やす決定が行われました。
これからスクラムの型に習いきちんとやっていきたいと考えていた Bチーム
は、その後スクラムに詳しい社内の人に始め方を教えてもらい、デイリースクラムから始めることができました。
この読書会にスクラムマスターやプロダクトオーナー経験者にも参加してもらったことで、そのむずかしさや負担を両チームとも認識できました。
スクラム実践の今後
この話は半年前の話です。
Bチーム
もスクラムを徐々に取り入れて、今ではスクラムの型を意識したチームへと進化しています。
例えば、スクラムガイド2020が出たので、プロダクトゴールを意識する話し合いをしたり、スクラムマスターのアンチパターンにはまってないかAチーム
とBチーム
間でスクラムマスターを交換することで気づきを得るといったプロセス改善を提案したりと成長中です。
常にスクラムの型に戻ることができるのは、なんとなくではなくて読書会をしたことによる成果だと感じています。
スクラムをこれから始める方は、読書会から始めてみるのはいかがでしょうか。