この記事について
GMOペパボのtarutaruです。
2026年3月24日、アクセシビリティエキスパート集団である毬藻企画合同会社さんとの共催で、「【GMOペパボ・毬藻企画】スクリーンリーダーによる実践的アクセシビリティウォークスルー 〜SUZURI byGMOペパボ編〜」というイベントを開催しました。
GMOペパボにとっては初めてのアクセシビリティイベント。この記事では、イベント当日の内容・様子など振り返っていきます。
イベントの背景・概要
GMOペパボでは、「人類のアウトプットを増やす」というミッションのもと、誰もが表現活動の機会を持てる世界を目指してアクセシビリティ推進にも取り組んでいます。ただ、組織としての浸透も各サービスの改善も、まだ「道半ば」というのが正直なところで、SUZURIもその例外ではありませんでした。
そんな折に、SUZURIでグッズ販売をしてくださっている毬藻企画の森田さんからお声がけいただきました。お話を重ねるなかで、「SUZURIのアクセシビリティ改善に取り組むなら、まずは現状の課題を知るところから。せっかくならオープンにやってみるといいんじゃないか」と、今回のイベントをご提案いただきました。
お話を受けて、弊社の事例を公開することが、アクセシビリティに取り組まれている方の学びや刺激になれば。そして、その外に向けた発信が巡り巡って社内のアクセシビリティ推進の後押しにもなれば。そんな期待もあって、今回共催という形でイベントを開催することにしました。
本イベントは、弊社のサービス「SUZURI byGMOペパボ」に対して、アクセシビリティウォークスルーを実施いただくイベントとして開催されました。あまり聞き馴染みのないワードだと思いますが、アクセシビリティウォークスルーは、認知的ウォークスルー(初見のユーザーがUIを一手順ずつ操作していくプロセスを追体験し、つまずきを抽出する手法)とエキスパートレビューを組み合わせたもので、毬藻企画さんによる造語になります。
当日は、全盲のエンジニアであるcatさん(野澤 幸男さん)をゲストとしてお招きし、SUZURIをスクリーンリーダー(NVDA)で操作しながらウォークスルーを実施いただきました。ウォークスルー中は、毬藻企画の伊原さんがファシリテートと解説を担当。ウォークスルー後には、catさん・伊原さんに加え、毬藻企画の坂巻さん、SUZURIデザイナーの白石さん・並松さんも加わり問題点の振り返りと改善方法のディスカッションを行いました。
今回は現地参加のみの開催でしたが、デザイナー・エンジニアなど計40名の方にご参加いただきました。当日ご参加いただいた皆さんありがとうございました。
当日の様子
アクセシビリティウォークスルー
ウォークスルー本番の前に、比較材料としてまず晴眼者である私が、マウス操作でSUZURIの商品を購入するデモを行いました。SUZURI公式ショップで「忍者スリスリくんのパーカー」を探して、カートに入れ、注文を完了する。私は特に引っかかるところもなく注文を終え、晴眼者にとっては数分で完了するタスクでした。
これに続く形でcatさんにはアクセシビリティウォークスルーを始めていただきました。catさんには、SUZURI内の毬藻企画さんのショップで「アクセシスタディーズのアクリルスタンド」を購入する、というタスクを遂行してもらいました。商品を探して、カートに入れ、注文を完了させる。流れ自体は基本的に同じですが、それをスクリーンリーダーで行うことで先ほどの晴眼者のウォークスルーとどのくらいギャップがあるのか、を参加者の方には体感いただきました。

結果だけ言ってしまうと、ウォークスルー中には本当にさまざまな引っかかりが発生しました。一つの商品を購入するだけでこれだけのつまづきがあるのかと、普段から慣れ親しんだ自分たちのサービスが、まるで全然知らないサービスに見えるくらい衝撃を受けました。
ここですべてのつまづきを取り上げることはできないので1つだけピックアップさせていただきますが、イベントの中で会場が一番ざわついたのが、商品のサイズ選択の場面でした。
SUZURIでは、サイズを選ぶUIとしてHTMLのselect要素が使用されていました。これ自体はなんの違和感もないことですが、catさんがスクリーンリーダーでこのselect要素を操作してサイズを選択し、カートに入れるボタンを押してみたところ、カートに入れることができませんでした。カートに入れられなかった理由は”サイズが未選択だから”。先ほど確かにサイズを選択したのをこの目で確認したはずなのに、実際にはサイズは選ばれていない状態で、皆の頭に「?」が浮かぶ状況でした。
実際には何が起きていたかというと、実はこのselect要素、select要素としての機能は無効化されており、マウスのクリックでカスタムのドロワーUIを開くためのトリガーとして使用されていました。サイズ選択は、そのドロワー側で選択しないとサイズが確定しない仕様になっていたのです。ところが、スクリーンリーダー(キーボード)からは通常のselectとして操作も選択もできてしまったため「選んだのに、選べていない」という状態になっていたのです。
catさんはこの問題について、こう表現しました。
お風呂用洗剤はお風呂を洗うために作られたのに他の目的で使うと何が起こるかわからない。つまり、用法用量を守って使ってほしい。
ネイティブのselect要素には、ブラウザが保証する期待された動作があります。それを別の目的で使えば、期待どおりに動かないケースが出てくる。シンプルだけど重い指摘でした。(※ なお、このサイズ選択の問題については現在改善対応を進めており、近日中に修正される予定です。)
このサイズ選択のほかにも、フォーカスが移動せずモーダルウインドウの存在に気づけなかったり、支払い方法のラジオボタンのグルーピングが把握しづらかったり、広告バナーを誤クリックしてしまったりと、多くのつまずきが発生しましたが、それでもcatさんは最終的に注文を完了させ、無事に(?)ウォークスルーを終えることができました。
改善提案ディスカッション
ウォークスルーを終えた後は、catさん・伊原さん・坂巻さん・白石さん・並松さんの5名で、問題点の振り返りと改善方法を議論しました。モーダルウインドウへのフォーカス移動やアイコンのラベル付けなど、改善策はいくつも挙がりましたが、中でも印象に残ったのは、「グッズの探索しやすさ」をめぐるやり取りでした。

きっかけは、並松さんからの問いかけでした。ウォークスルー中、catさんが「アクリルスタンド」と書かれたリンクを押すと、毬藻企画ショップ内ではなく、SUZURI全体のアクリルスタンドの商品一覧(毬藻とは関係のないアクスタが並ぶ画面)に飛んでしまう、という場面がありました。並松さんはここを取り上げて、「グッズを探しやすくするには、どんな工夫があり得るんでしょうか?」と切り出しました。
これに対しcatさんは、商品一覧から選ぶこと自体は不便ではなかったとしつつ、「そもそも『デザインを選ばないとTシャツやアクスタが出てこない』構造に気づくまでに時間がかかった」と振り返りました。これを受けて、伊原さんがSUZURIの構造的な特徴をこう整理してくれました。
SUZURIには「Tシャツやアクリルスタンドといったハードウェアとしての商品」と「その上に乗るデザイン」という二つの概念があり、これらが同じ画面に同居しているので、自分がいま触れているのが商品の話なのかデザインの話なのかがユーザーには見えづらい。catさんがリンクを押して関係のない商品一覧に飛んでしまったのも、まさにこの概念の混在が原因。
また、地続きの話として白石さんから興味深い補足が入りました。SUZURIショップのトップに並ぶナビゲーション(「デザイン」「グッズ」など)は、実はショップオーナー側でカスタマイズできる仕様になっており、SUZURI公式ショップでは「グッズ」というタブが並んでいるのに対し、今回の毬藻企画ショップのナビゲーションには「グッズ」が存在していなかったそうです。catさんがショップの構造を掴むのに時間がかかった一因も、おそらくここにあったのではないか。同じSUZURIでも、ショップによって構造の理解しやすさが揺らいでしまう、そんな現状そのものが課題として見えてきた、そんな議論でした。
最初はUIの小さな引っかかりに聞こえた話が、気づけば「SUZURIというサービスの情報構造をどう設計するか」という、もう一回り大きな問いに変わっていく。アクセシビリティは「スクリーンリーダーでどう読み上げさせるか」だけではなく、その手前にある情報設計のレイヤーまで含めて考えるべきテーマなのだと、改めて気づかされた時間でした。一つの問いからここまで議論が広がっていくその奥行きが、ディスカッションの中でもとくに面白く、印象に残ったセッションでした。
イベントを振り返って
イベントを終えた今正直に書くと、「まだアクセシビリティの取り組みが浅いSUZURIを題材にして本当に大丈夫か」という不安は企画当初からずっとありました。社内でも協議を重ね結果開催に至りましたが、その不安は当日まで消えませんでした。
それでも、いざイベントが始まってみると、catさんや伊原さんがユーモアを交えながら明るくウォークスルーを進めてくださり、ディスカッションでも「どうすれば良くなるか」が前向きに議論されていきました。参加者の皆さんもその一つひとつに真剣に耳を傾けてくださっていて、会場には終始「目の前の事象に一緒に向き合う」良い空気が流れていました。SNS上でもハッシュタグ #pepabo_marimo で学びをポジティブにシェアしてくださり、読みながらほっとしたのを覚えています。
そうした空気のなかで、私自身もたくさんの学びを持ち帰った一日でした。中でも気づかされたのは、catさんが操作のほとんどの時間を「ページの構造を把握する/要素を把握する/情報を把握する」ことに費やしていた、という事実です。それはおそらく、晴眼者が視覚情報で無意識のうちにやっていることでもあります。この現状把握でつまずきが多いと、目的のアクションにはなかなかたどり着けないし、たどり着くまでに想像以上のエネルギーがかかってしまう。catさんはあらゆる手段を駆使して現状を把握されていましたが、それはエンジニアであるcatさんだからこその引き出しの多さでもあったはずです。誰もがこの把握をスムーズに行える状態を、当たり前のものとして目指していきたいな、と改めて感じる時間でした。
そしてもうひとつ、企画者として嬉しかったことがあります。当日参加していた弊社デザイナーが、翌日にはもう自分の担当サービスでアクセシビリティ改善のPRを立てていたのです。「社外に向けたイベントが、社内にもいい刺激になれば」とひそかに期待していたことが、想像よりずっと早く、目に見える形で動き出していました。
ディスカッションの終盤、catさんがこう言ってくださったのが、強く印象に残っています。
みんなでいいものができていけばいいんじゃないかな。
このひとことに、今回のイベントの空気が全部詰まっていたように思います。アクセシビリティは、一社あるいは一人だけで完結するテーマではありません。社内外で関わる人たちと一緒に課題に向き合いながら、少しずつ良いものに変えていく。今回のイベントが、その小さな一歩目になっていたら嬉しいです。
さいごに
以上、イベントのふりかえりでした。
改めて、catさん、毬藻企画の皆さん、当日ご参加くださった皆さん、そして運営に関わってくださった皆さん、本当にありがとうございました!
今回のイベントで見つかったSUZURIの課題は、これからひとつずつ改善していければと思っています。数も多いので時間がかかるものもあるかもしれませんが、ゆっくり見守っていただけたら嬉しいです。
ちなみに、初開催ということもあり、運営面での反省点・学びもありました。たとえば、UDトークの字幕にスクリーンリーダーの読み上げ音声まで一緒に拾われてしまい、品質に影響が出てしまったり。こうした学びは、次回以降のイベントでしっかり活かしていきます。
今回のイベントは、毬藻企画さんとcatさんのお力を大いにお借りしての開催となりました。弊社としても、アクセシビリティを通して良いものづくりにつながる取り組みを、これからも続けていきたいです。今回はスクリーンリーダーが切り口でしたが、ほかにもさまざまな角度からアクセシビリティに触れられる場を作っていき、皆さんと一緒に学ばせていただけたらと思っています。
アクセシビリティに関わるみなさんも、これから興味を持つみなさんも、一緒に学び、いいものづくりをしましょう!