こんにちは。CTOのantipop.ethです。2022年3月7日に「組織の新設および役員の管掌変更等に関するお知らせ」という形で「ペパボ3推進室」の組成をお知らせしました。「ペパボ3推進室」とは、Web3に関する取り組みを進めていく組織です。
本記事では、どういう意図でそのようなお知らせをしたのか、なぜGMOペパボがWeb3への取り組みを始めるのかについて、背景と課題について述べます。本記事は、社内向けの文書を元にしていますが、後半で具体的に何をやっていくのかを書いた部分については割愛しています。これからの取り組みにご期待ください。
TL;DR
わたしたちは、これからのインターネットの展望を開く新たなパラダイムとなり得るWeb3に対して、これまでに築いてきた強みを生かした取り組みを始めます。
- Web3の魅力のひとつは、経済システムをプロトコルとしてビルトインすることによって、クリエイターに力を取り戻そうという動きであるとわたしたちは捉えています。
- わたしたちはこれまでたくさんのサービスを展開してきましたが、そのどれもがクリエイターの表現活動を、その時々の新しい技術を用いて支援するものです。
- クリエイターを支援するわたしたちのミッションを遂行するため、Web3の潮流に対して、これまでに築いてきた強みを生かしつつ、新しい取り組みを行う必要があります。
- 「ペパボ3推進室」を設置し、Web3の考え方を取り入れつつ、ユーザにとっての利用価値の高いサービス開発・提供を具体的に実行していきます。
わたしたちのミッション
まずはじめに、わたしたちのミッションを改めて確認したいと思います(下図)。
ところで、これが具体的にどういうことなのかは、社長のkentarow.ethさんによるメッセージで語られています。
ホームページを作る人、ブログを書く人、ネットショップを運営する人、オリジナルグッズを販売する人、ハンドメイド作品を販売する人、フリーランスとして働く人 …… 私たちはそのすべての人たちを、敬意を込めて「クリエイター」と呼んでいます。
クリエイターの表現活動は、テクノロジーの進化に伴い、収益を生む新たな経済圏として形成が進み、今後もその数は増加し続けるでしょう。そして私たちはこれからも、すべてのクリエイターの可能性を、インターネットでつなげ、広げられるプロダクトを生み出していきます。
クリエイター・エコノミーカンパニーとして、世界中の表現活動を行うすべての人に寄り添い、支援し続ける企業であるために。
ー トップメッセージ | 企業情報 | GMOペパボ株式会社
このように定義された広い意味での「クリエイター」に対して、「テクノロジーの進化に伴い」「すべてのクリエイターの可能性を、インターネットでつなげ、広げられるサービスを生み出していきます」と語られています。GMOペパボはこれまでたくさんのサービスを生み出してきましたが、そのどれもが上記した意味におけるクリエイターを支援するものでした。
Web3に対する取り組みも、このミッションを遂行するに際しての延長線上にあります。
ペパボ3推進室の設置
前述の通り、2022年3月7日、Web3に関する取り組みを行う「ペパボ3推進室」を設置したことを開示しました(※1)。昨今のテクノロジーの進化に伴って現れつつあるWeb3と呼ばれる新たなWebの潮流に対して、わたしたちがこれからもクリエイターの可能性をつなげ、ひろげていくために、具体的な取り組みを進めていくための組織です。
※1:2022年3月7日適時開示「組織の新設および役員の管掌変更等に関するお知らせ」
ちなみに、「ペパボ3」というのはkentarow.ethさんの命名による名称です。2003年の創業、2008年の上場から2012年のminneリリースにかけての第2創業期に続く、新たな時代における「第3創業」という大きなビジョンとしての「ペパボ3」ということなのだろうと、わたしは解釈しています。
Web3とは何か
本節では、Web3の定義と特徴を踏まえた上で、それがこれからのクリエイターを支援することを可能にする技術を含むことを確認します。
Web3の定義と特徴
わたしたちは新組織を設立してWeb3の潮流に対して取り組みを進めていくと述べましたが、そもそもWeb3とはなんなのでしょうか。Wikipedia(英語版)のWeb3に関する記述は以下のように定義しています。
Web3(Web3.0ともいわれ、小文字でweb3と表記されることもある)は、新時代のワールド・ワイド・ウェブに関する考え方であり、ブロックチェーン技術を基盤としている。それは、非中央集権やトークンを基盤とする経済といったコンセプトを組み入れるものである。
ー Web3 - Wikipedia(※2)
※2:Web3 - Wikipediaの該当部分の、筆者による翻訳。
ブロックチェーン技術を基盤とすることで、非中央集権的かつトークンを基盤とする経済を取り入れたWebというように、差し当たっては読むことができます。
ところで、Web3というからにはWeb1とWeb2もあるはずです。それらとの比較においては、どういうことがいわれているのでしょうか。シリコンバレーの代表的なベンチャー・キャピタルであるAndreessen Horowitzによるブログに掲載された記事を見てみましょう。
Web1(おおむね1990-2005年)は、非中央集権的にコミュニティによって管理・運営されていた、オープンなプロトコルのことである。ネットワーク上のエッジ、すなわち(プロトコルの)利用者と構築者に対して、価値のおおよそは生じる。
Web2(おおむね2005-2020年)は、企業によって運営されるサイロ状で中央集権的なサービスのことである。グーグル、アップル、アマゾン、フェイスブックのような一握りの会社に対して、価値のおおよそは生じる。
わたしたちはいま、Web3時代の始まりに立っている。それは、非中央集権的でコミュニティによって管理されるWeb1的なエートスと、先進的で現代的な機能を持つWeb2を組み合わせるものである。
Web3は、構築者と利用者とによって所有され、トークンによって結び付けられる。
– Why Web3 Matters | Future(※3)
※3:Why Web3 Matters | Futureの該当部分の筆者による翻訳。
少し補足をしましょう。Web1の時代には、学術機関等に所属する人々を中心とするオープンなコミュニティが構築してきたプロトコルにより、ネットワークへの参加者自身が価値を享受する時代でした。Web2の時代には、Webは広く使われなくてはならないほどに便利なものになりましたが、一方で、いわゆるGAFAと呼ばれるグローバル大企業群を始めとする企業が多くの価値を享受してきました。
それに対してWeb3では、Web1とWeb2のいいところを取り入れつつも、トークンをベースにした「所有」という観点に基づいて価値の享受者を個人へと取り戻そうという動きであるということがいわれています。
上記の整理と似たような切り口でWeb1からWeb3までの3フェーズを整理した資料として、以下の図があります。
– The Metaverse, Grayscale Research, November 2021, p.5
ここでもまた、Web1やWeb2と比較して、ブロックチェーンをベースとした非中央集権的で所有に基づく新しいWebの姿としてWeb3が語られています。前述の定義とこの図表で述べられている整理を総合すると、Web3の特徴は以下の通りまとめられます。
- 非中央集権的なコミュニティベースの管理・運営
- 基盤技術としてのブロックチェーン技術の利用
- トークン技術に基づく新しい経済システムの実現
それぞれ、これからわたしたちのWeb3への取り組みをみていく中で都度参照していく中で詳しく述べていくので、ここでは特徴を確認するにとどめておきましょう。
クリエイターのためのWeb3
ここまで、Web3の定義と特徴について、現在時点における一般的な観点からみてきました。もう少し視点を変えて、歴史を振り返ってみましょう。
ポッドキャスト番組「Off Topic // オフトピック」の#90(※4)および#91(※5)は、Web3について扱っています。そこでは、Web3について「ユーザが所有権を持つインターネットであり、トークン技術がそれを可能にする」という、これまでみてきた定義におおむね沿った定義が行われています。その上で、インターネット上でのクリエイターの活動を支援するというミッションを持つわたしたちにとって、興味深いことが語られています。私見を交えながら紹介します。
※4:#90 もし決済機能が初期のWEBにあったら…?インターネットの誕生物語 by Off Topic // オフトピック
※5:#91 Web3とインターネットの進化 by Off Topic // オフトピック
当該番組は、これまでのインターネットにおいて、クリエイターがデジタルな制作物に対するフィードバックを得るための主な手段は、SNS上の「いいね」のような非経済的な価値に基づくことが主であったと主張します。もちろん、そのような価値も重要なことであると私個人としては思いますが、デジタル作品への対価を経済的な形で得ることが難しいというのが仕組みの問題なのであれば、それを解決したいとも思います。なぜインターネットはそのようなことになってしまったのでしょうか。
Web創世記のブラウザであるMozaicやNetscape Navigatorを開発したマーク・アンドリーセンは、その当時からインターネットに決済が可能なプロトコルを組み入れるべきであると考え、実際に取り組みを進めようとしていたエピソードが紹介されています。それはある事情によって叶いませんでした。そのため、Web上で経済的な対価を得る仕組みは、広告モデルやWeb2的な企業によるサービスを通じた販売、昨今だとサブスクリプションモデルとして実現されることになりました。
その結果として、作品に対して経済的な対価で報いるのが当たり前のリアルな世界と違い、インターネットの世界では非経済的な見返りが主となってしまったのです。それは、これまでのインターネットにはクリエイターが経済的な対価を得るための適切な仕組みがビルトインされていないためです。もちろん、経済的な価値を対価としてクリエイターが得る手段もありますが、それらはクリエイターが直接に対価を得られる仕組みではありません。
また、デジタル作品が容易にコピーできるという性質上、経済的な対価を払おうにも、自分が適切な手段によって(つまり対価を払って)作品を入手したことを主張することが難しいという事情もあります。つまり、単にコピーしただけのことと、適切な対価を払って作品を所持していることの区別をつけるのが困難であるということです。そのことは作品の価値づけの根拠を薄弱にしてしまうために、経済的な価値づけにはリスクが伴います。
上記でみてきたWeb3の定義のいずれにも、それぞれ「トークン」や抽象化した表現としてのVirtual Economiesという言葉が現れます。トークンによる価値の表現を支える技術的な基盤が、ブロックチェーンです。それらが解決するのは、Web1やWeb2が別の手段で代替的に解決してきた、クリエイターへ経済的な対価で報いるための適切な仕組みがないという問題です。このことは、わたしたちのミッションの観点から見ても、とても重要なことです。
表現を支える技術の変遷
本節では、わたしたちが支援するべきクリエイターのインターネット上での表現を実現する技術がこれまでどのように変遷してきたのか、そしてこれからどうなるのかについて見ていきます。
これまで(2001年-2021年)
GMOペパボは、前述の通りクリエイターのインターネット上での表現活動を支援するための多種多様なサービスを世に問うてきました。祖業のロリポップ!を始めとするホスティング事業、カラーミーショップを中軸とするEC支援事業、ハンドメイド作家と購入者をマッチングするためのプラットフォームであるminneや、イラストレーター等のクリエイターがデジタル作品をグッズ化することで収益を得られるSUZURIなどがあります。GMOペパボの創立15周年の際に、以下の通りまとめたものがあります。
ー 創立15周年記念の際に株主総会での掲示のために作成した図表
ロリポップ!がサービスを開始した2001年(※6)においては、ホームページを作成するというのは難しいことでもあり、また、レンタルサーバーは高額な利用料を払って使うものでした。そのため、ホームページという、当時の最新技術によりインターネットで表現活動をするクリエイターを支援するためには、使いやすく安価なサービスを提供する必要がありました。「ロリポップ!」はわかりやすい操作体系と、安価にサービスの提供を可能とする高い運用技術をもって、その当時から現在に至るまで、クリエイターの表現を支援し続けています。
※6:GMOペパボの旧社名であるpaperboy&co.の創立は2003年です。
その後に続くカラーミーショップ、minneやSUZURIといったEC系のサービスにしても、それぞれがその時代における新しい表現を可能とする新しい技術を用いてサービスを作ってきました。カラーミーショップは、カスタマイズ性に優れた自由度の高いテンプレート機能や、多種多様な決済方法への対応を通じて、ネットショップを誰でも簡単に始められるものにしました。minneは、スマートフォンの普及によって個人間取引がこれまで以上に進むだろうという見込みのもと、ハンドメイド領域での表現を支援するべく取り組みを開始したサービスです。SUZURIは、リアリティを追求した画像合成技術によってデジタル作品を魅力的なグッズとしてプレゼンテーションすることで、オンデマンドプリント市場を広げてきました。
これから(2022年以降)
面接の際に頻繁にきかれる質問に「御社は今後どのような事業・サービスを展開していくつもりですか?」という内容があります。それに対して私は、いつもこのように回答しています。
わたしたちはたくさんの多種多様なサービスをやってきたが、そのどれにも通底するのは「クリエイターのインターネット上での活動を支援する」ということである。そして、インターネット上での活動であるからには、それは技術によって実現されているものである。2001年においてはホームページが新しい表現技術であったように、メタヴァース、IoT、AI、ブロックチェーンといったものがこれからのクリエイターを支える技術になるかもしれない。ペパボとしては、そのような新しい技術によって可能になる表現を支える事業・サービスをこれからも展開していくつもりである、と。
ここでは、上記で「これからのクリエイターを支える技術になるかもしれない」ものとしてあげたうちのひとつである、ブロックチェーンに関する技術について述べます(※7)。
※7:AIについては、「CTOメモ: 2022年のテクノロジー方針」(社内のみ公開の文書)で既に述べました。
NFTの可能性
ここで、少し目先を変えて、Web3という文脈で語られることの多いNFTについて見ていきましょう。NFTを支える技術的基盤であるブロックチェーンについて、日本ブロックチェーン協会は以下の通り定義しています(※8)。
電子署名とハッシュポインタを使用し改ざん検出が容易なデータ構造を持ち、且つ、当該データをネットワーク上に分散する多数のノードに保持させることで、高可用性及びデータ同一性等を実現する技術を広義のブロックチェーンと呼ぶ。
ー 当協会について | JBA | 一般社団法人 日本ブロックチェーン協会 | Japan Blockchain Association
※8:実際には2つの定義があり、引用したのはそのうちの広義のブロックチェーンに関する定義です。
ここでのポイントは、改ざん検出が容易、すなわち改ざんすることが事実上不可能であるということです。
NFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)(※9)は、デジタルコンテンツ等を代理的に表現するデジタルデータとしてのトークンIDに対して、ブロックチェーン上のアドレスとして示されるアカウントとのひも付けを、ブロックチェーンの特性を利用することで改ざん不可能な形で実現するものです。そのことにより、本文書の文脈においては、技術的には容易にコピー可能なデジタルコンテンツに対して、権利行使の主体であることを証明することが機械的に可能になります。また、ブロックチェーンを通じてそのひも付けを他のアカウントに移転することを容易に行えるのも利点です(※10)。
※9:「Non-Fungible=非代替的」という耳慣れない(かもしれない)言葉が何を意味するかについては「10分で分かるNFT(Non-fungible token) | HashHub Research」がわかりやすいです。
※10:ここでのNFTの定義は、技術的な正確性をできるだけ期すためにいささかわかりにくい内容になっています。ビジネス上の観点からのわかりやすいNFTの説明については、天羽健介・増田雅史編著『NFTの教科書 ビジネス・ブロックチェーン・法律・会計まで デジタルデータが資産になる未来』(朝日新聞出版、2021年)をご覧ください。一方で、NFTの技術的な限界を踏まえずにビジネス的な展望のみによって話を広げるのは、実際にサービスを開発する観点からすると、落とし穴にハマることになりかねません。NFTの技術的な正確な詳細については「いろいろソフトエンジニアなら3秒で理解できる NFT 入門 - Okapies' Archive」という記事が有用でしょう。
前述した通り、Web3の特徴にあげたうちの一つである「トークン技術に基づく新しい経済システムの実現」は、わたしたちのミッションの観点から見ても、とても重要です。なぜなら、それはクリエイターがインターネット上での表現活動を行うに際して、デジタル作品への経済的な対価をこれまでのWebでは実現できなかった形で得られる仕組みを、広い意味でのプロトコルとしてインターネット上にビルトインすることにつながり得る技術だからです。そこでいわれているトークンの一例が上述したNFTであり、Web3を実現する有力な技術のひとつだろうと思います。
クリエイターによる今後のインターネット上での表現活動を支援していくには、クリエイターのための経済システムを実現し得るWeb3の実現に対して、わたしたちは取り組んでいく必要があります。その具体的な手段のひとつとして、NFTが有力な選択肢になり得ると考えます。
NFTの限界
デジタルコンテンツのコピーという技術的な行為そのものはゼロコストで行えます。一方で、ある人がそのデジタルコンテンツのコピーを正当に所持しているのかどうかを確認する行為にはコストがかかります(※11)。NFTはその面において、効力を発揮する可能性が高い技術です。一方で、コピーしたコンテンツを二次利用するということになると、NFTの技術的な仕様のみで自明に行えるということではありません(※12)。
※11:例えば、作者に証明書を出してもらう、裁判で判決を得るといったことが考えられます。
※12:前掲書を参照してください。
また、NFTのみによってデジタルコンテンツそのものの希少性を技術的に担保することもまたできません(※13)。では、現行の社会的な取り組みにおいて、そのような希少性の担保が確実に実現できているかというと、そうでもないのです。例えば、複製芸術(写真や版画等)の世界ではエディションを限って販売することで希少性を持たせることが行われていますが、それはギャラリーやアーティストその人への信頼が可能にしているのです。
※13:「NFTに対する技術的な誤解」を参照してください。
これら2つの例は、経済システムにおけるわたしたちの活動の可否や成否は、NFTという技術のみで担保し得ないということを示しています。一方で、それはNFTそのものの機能不足のみによるのではなく、人々による経済活動という営みが、既存の社会的な諸制度やその他の慣習や道徳・心情等にも基づくという、より根本的な限界によります。
そうなると、NFTである必然性がどこにあるのかという疑問が出てくるのもまた自然なことです。NFTの技術的な強みは、前述の通り、トークンIDとアドレスのひも付けの完全性、移転容易性にあります。代替可能な手段は他にもあり得るのかもしれませんが、それは技術的な探求が待たれるところでしょう。
一方で、前述の通りNFTという技術のみで経済システムにおける実践をカバーすることは不可能ですので、その有用性への社会的承認を調達する必要は別途あります。わたしたちの活動には、そうしたルールメイキングもまた必要になります。その面でも、プロダクト開発のみならず、法務部門も含めて取り組みを進めていきます。
当面のポジションと課題
本節では、前節でその可能性と限界を確認したNFTを中心に、今後具体的な取り組みを進めていくに際して、解決すべき課題について述べます。
Web3に対するポジション
これまで見てきた通り、Web3の魅力の大きなひとつとは、これまでのWebに欠けていたプロトコルとしての経済システムをビルトインすることによって、クリエイターに力を取り戻そうという動きだとわたしたちは認識しています。前述した通り、それは以下のような特徴を持つものでした。
- 非中央集権的なコミュニティベースの管理・運営
- 基盤技術としてのブロックチェーン技術の利用
- トークン技術に基づく新しい経済システムの実現
一方で、こちらもすでに見てきた通り、わたしたちはクリエイターを支援するためのサービスを長年にわたって複数の領域で展開してきました。つまり、これまでWeb1やWeb2の領域で積み重ねてきたノウハウや実績がわたしたちの強みであるということです。
ところで、Web3が特徴として持つ非中央集権性は、逆にいうとわたしたちのような企業にとっては、現状のところそのままでは適用しづらい概念です。Web3に対してそのまま向き合うのでは、わたしたちのこれまでの強みを自ら損なう行為になりかねません。そのため、クリエイターのためのWeb3という考えと、GMOペパボが築いてきたWeb2的な強みとを、バランスよく実現していくことが、まずわたしたちが取り組むべきことだといえます(※14)。
※14:このポジションは、Web3への過渡期における当面の考えを示しているものとお考えください。
NFTのもたらす2つの価値
そのバランスをいかにしてとっていけばいいのかについて考えるために、NFTを例にとって考えてみましょう。トークン技術に基づく新しい経済システムを実現する上で主要な手段となり得るNFTには、以下の2つの価値があると考えます。
- 交換価値:デジタルコンテンツをNFT化することで、経済的な対価を適切に得られ得る形で交換可能にすること
- 利用価値:NFTにひもづくデジタルコンテンツを多様な用途で利用可能にすることで、NFTに意味づけを与えること
NFTを価値交換のための経済システムの実装手段として見た場合、Web3の特徴である非中央集権性こそが最重要なテーマになってくるでしょう。その場合、上述した通りわたしたちのような企業は、これまで築いていた強みを生かせる場面は少なくなってくるはずです。一方で、まだまだ一般の人々が利用するには難しさのあるWeb3の技術的限界(※15)を低減する、Web3の利用インフラ基盤のようなものを提供する道はあるように思われます。
※15:Web2 vs Web3 | ethereum.org
利用価値についてはどうでしょうか。こちらにはわたしたちが力を発揮できる余地が大いにあるように思われます。現状、NFTの交換価値が高く(過大に?)評価されることで、投機的な動きが目立ちます。一方で、それらのNFTを持っていることによる交換価値以外の具体的な嬉しさがどれほどあるでしょうか?たとえば、あるNFTを所持している人々だけがアクセスできるコミュニティを運営するといった取り組みが行われています。わたしたちのサービスとNFTを組み合わせる(※16)ことで、そうした利用価値の選択肢をもっと増やせるでしょう。
※16:こうしたパーツの組み合わせによる価値創出を可能とする性質を「コンポーザビリティ」といい、Web3の実装面における重要な性質であるとされています。詳しくは、Composability is Innovation | Futureなどを参照してください。
わたしたちのWeb3に対する取り組みは、これまで築いてきた強みを生かしつつ、クリエイターや利用者にとっての利用価値を向上させることを目的として、まずは具体的に進めていこうと考えています。
おわりに
ここまで見てきた通り、Web3は、これまでのWebに欠けていたプロトコルとしての経済システムをビルトインすることによって、クリエイターに力を取り戻そうという動きです。
わたしたちはこれまでたくさんのサービスを展開してきましたが、そのどれもがクリエイターの表現活動を、その時々の新しい技術を用いて支援するものです。クリエイターを支援するわたしたちのミッションを遂行するため、Web3の潮流に対して、これまでに築いてきた強みを活かしつつ、新しい取り組みを行う必要があります。そのため、これからのクリエイターの表現活動を支援するべく、Web3の考え方を取り入れた機能開発を具体的に実行していきます。
いろいろと書いてきましたが、これだけ世界中が動き始めているインターネットの新しい潮流に対して「めちゃワクワクする!」という気持ちというのも、私個人としてはあったりしますし、そこに共感を覚える人も多いのではないでしょうか。社内外で広く連携を図り、これからのクリエイターの表現活動を支えるサービスを提供していきます。