こんにちは、CTOのあんちぽです。
GMOペパボでは現在、半年ごとに目標と実績に基づく評価を行っています。それとは別に、同じく半年ごとに等級の昇降格についても決定を行っています。本エントリは、制度実施にともなってわたくしが社内向けに書いた文章を、そのまま貼り付けたものです。
エンジニアの制度についてまとまっている最新情報としては、シニア・プリンシパルエンジニアの@pyama86が「ペパボのエンジニア文化を醸成するエンジニア評価制度」というエントリを書いています。このエントリでは、その「文化」というのはどういうことなのかについて、もう少し深掘りして述べています。
まずは、今回も本制度の実施に関わったすべての方(立候補者、立候補者への支援者、一次評価に関わったCTLのみなさん等)に感謝します。ありがとうございます。
2015年下半期の本制度実施時に書いた文章において、この制度の目的について述べました。すなわち、ペパボという会社が大きく成長していくのに必要な競争力である、技術力を向上させることが目的であるということです。ここでは、あらためて目的について簡単にお話したいと思います。
会社にとっての競争力の源泉は、まずは「人」ですが、しかし「人」のみではありません。「ペパボという会社の競争力の源泉とは何か?」と僕が問われたとしたら、まずは「ペパボで働いているパートナーみんなである」と答えるでしょう。さらに「では、その「パートナーみんな」を別の会社にそのまま移動したら、その競争力は維持されるのか?」と問われたら、「そんなことはなさそう」と答えるでしょう。
「人」と、人々が作り上げる「組織文化」の組み合わせこそが、競争力の源泉なのです。単に人がたくさん集まっているというだけでなく、関わるすべてのパートナーによって日々作られ、維持され、変化していく価値観・仕組み・制度・雰囲気などを総合した「組織文化」もまた、競争力の源泉です。正確には、人と組織文化が相互に依存して、会社の競争力の源泉をなしています。そして、このエンジニア職位制度もまた、組織文化の重要な一部をなしています。
シニア・プリンシパルエンジニアのうづらさんが受けたインタビューの中で、職位制度について説明した際に、インタビュアーがこんな感想をもらすくだりがあります。
――これほど自薦が求められる評価制度は、日本企業ではかなり新鮮な印象を受けます。
「GMOペパボは、憧れの会社だったんです」近藤宇智朗(GMOペパボ株式会社)~Forkwellエンジニア成分研究所
確かに、ペパボの職位制度は聞く人に「新鮮な印象」を与えるほど、独自な組織文化のひとつであるように思います。
なぜ「自薦」をそこまで重視するのか?それは、自薦によってしか得られない効果があるからです。自薦により、結果として自分のこれまでを見つめ直し、やってきたことをストーリーにまとめあげ、明晰な主張に練り上げることができ、それが成長にとって大きく寄与すると考えているからです。もちろん、支援者(フックアッパーと呼んでいますが、より適切な名前に変えようとおもっています)など周囲からのサポートもありますが、最終的には自分が気づく必要があるため、「他薦」ではなく「自薦」を求めています。
自薦することは、自分を不必要に大きく見せることではありませんし、自分のよさをゴリ押しするようなことでももちろんありません。当たり前ですが、評価者はそういう取り繕いのようなことにはすぐ気づきますし、高く評価することもありません。そうではなく、自分の来歴や能力、思いやビジョンを言語化し、比較に基づいて適切にアピールできているかどうかを見ています。
――要件はどういうものなんですか?
近藤 要件は、ハッキリとは明示していないんです。
「GMOペパボは、憧れの会社だったんです」近藤宇智朗(GMOペパボ株式会社)~Forkwellエンジニア成分研究所
エンジニア専門職のグレードについて詳細な役割定義は必要か?という僕のブログエントリにも書いたことがありますが、本制度は、昇降格の要件を必ずしも明示的には決めていません。つまり、要件や基準それ自体を、この制度のプロセスを通して、みなさんとともに作り上げていくというのが、自薦の効果のひとつとしてあります。ですから、何か明確な基準があってそれにあてはまるかどうかという発想ではないですし、そのことはむしろよいことだと僕は考えています。
もちろん、言語化が苦手だったり、自分について主張するのが苦手なひとはいるでしょう。僕だって別に得意ではないですし、どちらかというと苦手な方だと思います。また、言語化や自己主張が下手でも「優れたエンジニア」であるということは有りえますし、実際そういうひとはたくさんいるでしょう。ですので、本制度が必須としている自薦において必ずしもフルに能力を発揮できなかったとしても、それはそのひとのエンジニアとしての能力とはまた別のことです。
ではなぜ本制度はいまあるような、このような制度なのか。本制度は一般論としての「優れたエンジニア」を選別するものではありません。組織文化として、ペパボのエンジニアとしてよりあるべき姿を体現しているひとを見出していき、そのことで本人はもちろん、目標や体現する人物ができることにより周囲の認識を変え、技術力を高めていくためのものだからです。また、適切・的確な自己主張ができることは、技術者としてのリーダーシップを発揮する上で必須です。
文化とは,自分たちにとっての価値を見分ける体系のことです。実際、企業理念「もっとおもしろくできる」や「わたしたちが大切にしている3つのこと」というペパボ全体の組織文化のおおもとになっている言葉には、「価値を見分ける」基準がうたわれています。職位制度が大きな一部をなすエンジニアの組織文化においては、「自薦」という具体的なアクションの背景にある、自分の見つめ直し、言語化による主張を価値としているのです。そうして積み上げてきた組織文化の、独自の、固有の複雑さこそが、ペパボの競争力になると、僕は信じています。