デザイン 研修

みんなでドライブへでかけよう。ペパボの新卒デザイナー研修2018

デザイン 研修

2018年4月、 GMOペパボ株式会社 ことペパボでは、今年も新卒社員が10名入社しました。そして、そのうちのふたりがデザイナー職でした。やったね!

ペパボでは、社会人として知っておきたいマナーを身につける研修からはじまり、ペパボの文化や事業を知る研修や、実際にカスタマーサポートの業務を通じてユーザーとコミュニケーションをとるなど、仕事の進め方を体験できる研修を用意しています。約2ヶ月におよぶこれらの研修を終えると、ほとんどのパートナー(ペパボでは社員のことをパートナーと呼んでいます)はさっそく事業部へと配属されますが、デザイナー職のおふたりにはさらに専門性を獲得していただくべく、5週間にわたって「新卒デザイナー研修」を実施しました。

この記事では、そんな「新卒デザイナー研修」で、なにをしたのか、なぜそうしたのか、やってみたらどうなったのか、お話したいと思います。

研修を設計する

ペパボが新卒採用をはじめて、今年で8年目です。この「新卒デザイナー研修」は毎年開催しているものではありますが、以下の理由からその内容を見直す必要がありました。

  • 2020年度の新卒採用より、入社する時期を4月と10月の年2回から選べる通年採用を導入すること。
    • 新卒のパートナーが入社するたびに、これまでのように大規模な研修をおこなうのはむずかしい。また、キャリア採用で入社したパートナーも、研修で足りないスキルを補えるようにしたい。だれでも、いつでも参加できるような研修をつくることはできないだろうか?
  • メンターの業務時間が研修に割かれてしまい、研修を実施しているあいだは担当する事業部の仕事が止まってしまうこと。
    • このままでは、事業部が忙しいから研修を受け入れられない、という事態になりかねない。でも、本来は研修は受け入れるものではなく、事業部の成長に必要とされるべきものなのではないか?

そこで、これまでの研修を引き継ぎながら、新しい「新卒デザイナー研修」を設計していきました。

まずはじめに、昨年の「新卒デザイナー研修」を実施したメンターで話し合い、そもそもなぜ「新卒デザイナー研修」を開催しているのかという目的と、メンティーである新卒デザイナーのおふたりが、研修を受けたあとどうなっていれば成功なのか?というゴールを設定しました。

ペパボでは、デザイナーの評価軸を「考える力」「形にする力」「影響を拡げる力」の3つの力に分類して、それぞれ等級ごとに期待しているすがたを明文化しています。研修の目的やゴールを設定する議論のなかで、この3つの力が発揮される場面を体験して、このような評価軸を設けている意図をメンティーが把握できれば、研修の目的を達成できるのではないか。さらに、そういった研修の内容を大学の授業のようにカリキュラムへ落とし込んでシラバスを用意し、資料や取り組み方をアセット化すれば、再利用しやすい研修になるのではないか、という仮説が立ちました。

また、メンティーだけでなく、メンターにとっても必要とされる研修とはどういうものなのかを考えました。デザイナーは、デザイナーというひとつのことばで説明されてしまいがちですが、そのなかにはたくさんのスキルがあり、それぞれが得意なスキルを持っています。得意なスキルについて話すことは誰だって好きだし、話すことは得意なスキルを深める機会です。そこで、例年のようにメンターをひとりに任せるのではなく、デザイナーのスキルを「リサーチ」「グラフィック」「コーディング」に大きく分類したうえで、スキルごとに複数のデザイナーをメンターとしてアサインしました。複数のデザイナーをアサインすることで、課題になっていたひとりあたりの研修に割く時間を減らすねらいもありました。

研修をやってみる

2018年の「新卒デザイナー研修」は、以下のようなカリキュラムとなりました。

これらのカリキュラムは事前にすべてを用意したわけではなく、研修がはじまってからもメンティーの状況や要望を取り込んで、結果的にメンターとメンティーがいっしょにつくりあげた研修になりました。

本を読んでもらう

研修がはじまる2ヶ月前に、メンティーに 『なるほどデザイン』『Webサイト、これからどうなるの?』 という2冊の本を渡して、読んでもらいました。本を読むときには、わからなかったところや、おもしろかったところに印をつけていただき、研修の初日に本を持ち寄っておしゃべりしました。

『なるほどデザイン』は、メンターとメンティーが共通のことばを持つために、『Webサイト、これからどうなるの?』は、研修のなかで初めて触れる用語を解説してくれる辞書のような役割を期待して、この本を選びました。

グラフィックツールの日

Photoshop, Illustrator, Adobe XD, Sketch など、ペパボのデザイナーが利用しているツールの特長を紹介して、操作しながら使い方を学びました。とくに環境設定を整備したりショートカットの存在をていねいに伝えて、はじめから効率的に作業に取り組めるようにしました。

メリハリ研修

minne が運営する minne mag. というウェブメディアのなかから、ハンドメイド作家へインタビューしている記事をひとつ選び、読んでほしいペルソナを設定したうえで、記事にある写真と文章に優先順位をつけてA4の紙に構成しなおしました。

この研修については、新卒デザイナーのはあちゃんが こちらの記事 で詳しく紹介しています。

リサーチ研修

minne mag. を「買い物ができるウェブメディア」と捉えて、同じ機能を持っている他のウェブメディアを対象に、サイトの構造やUI、記事の内容をリサーチし、気づいたことと改善の提案をまとめて、 minne mag. を運営しているディレクターとデザイナーへプレゼンテーションしました。

この研修も、はあちゃんが こちらの記事 で取り組んだことを詳しく紹介しています。

コーディングの日

ペパボのデザイナーは、ウェブのフロントエンドの開発にも携わっています。そこで、マークアップとスタイルシートの基礎を学んだり、ChromeのDevToolsを利用しながらソースコードを写経する研修を行いました。コーディングが得意なデザイナーと近所の本屋へでかけて、じぶんのスキルにあった参考書を選ぶ… ということもやってみました。

OJT

ここまでの研修で学んだことを活かして、 カラーミーショップグーペ のふたつのサービスでOJTを行いました。事前にタスクは決められておらず、それぞれのサービスをリサーチして改善点を洗い出し、サービスを運営しているデザイナーといっしょにユーザーテストを重ねて、改善案をブラッシュアップしたあと、開発してユーザーへ提供しました。

キャリアキーノートウィーク

研修と並行して、新卒で入社したデザイナーや、ペパボで長い期間を働いている先輩デザイナーたちを中心に、これまで経験してきたことを紹介する「キャリアキーノート」というプレゼンテーションを、1日1人ずつ毎日開催しました。

「キャリアキーノート」の意味やその効能については、詳しくは @okkun さんの こちらの記事 をご覧ください。

アウトプットウィーク

ペパボでは、じぶんが知っていることや学んだことを「アウトプット」することで、周囲へ良い影響を与える動きを大切にしています。そこで、これからメンティーが継続してアウトプットしていく場をメンティー自身に考えてもらい、社内のパートナーへむけてプレゼンテーションしました。

みんなでドライブへでかけよう

いざ研修をやってみると、メンターであるぼくは、たくさんのことに気づかされて、そのたびにこころが締めつけられました。メンターがメンティーの成果物をレビューするだけでなく、メンティー同士でもレビューしあってみたこと。ひとりが複数人へ教えるのではなく、1対1で伝えていくペアコーディングの時間がとても豊かだったこと。デザイナーのスキルは重なり合っていて、明確に区別できないこと。研修をアセット化したいなんて話していたけど、メンターもメンティーも人間だから、人間はアセット化できないということ…。

良い研修とはどういうものなのか、ずっと考えていました。それは、研修を受けるメンティーにとって、また、研修を実施するメンターにとって、いちばん有意義な時間の使い方とはどういうものなのかを考えることでした。そんなとき、だんだん、研修とは、教育とか学校とかではなく、車でドライブへでかけるようなものなのではないか、と思いはじめてきました。

つまり、研修とは車であって、おなじ車にメンターとメンティーが乗り込んで、全員がおなじ方向を見ながら進んでいく。その車は、メンターが運転してもいいし、メンティーの運転にメンターが乗り込んでもいい。大切なことは、みんながひとつの車に乗ることで、おなじだけ遠くへ行けるということ。なによりも、ドライブは楽しい。それは、でかけたときには想像もつかなかったような遠くへたどりついてしまって、見たこともない風景を見ることができるからなんだ。

そんなふうに、できるだけ遠くへ行ける車をデザインすること。車に乗り込んだときに、行き先を決めないこと。決めるときは、乗り合わせた全員でいっしょに目的地を探していくことを、今回の研修では大切にするようになりました。

とくにその思いを強くしたのは、「キャリアキーノートウィーク」です。もともとはメンティーのために企画したプレゼンテーションでしたが、毎日たくさんのデザイナーや、デザイナーではない他の職種のパートナーも集まって、ひとりの話をしずかに聴くという熱量をもった場がうまれました。この時間は、みんなでおなじ車に乗って、ドライブを楽しんでいた時間だったように思います。メンティーのおふたりには、こんな機会をつくっていただいて感謝の気持ちでいっぱいです。

いや、ほんとうのことをいうと、じつは、メンティーが、研修を通してたくさんの人たちと関わってくれることによって、メンターを研修してくれることにはならないかということを、どこかで期待していました。これは、ぼくたちの「新卒デザイナー研修」だからです。

ペパボには、来年も新卒デザイナーが入社します。今回の研修をもとに、さらにブラッシュアップして、ぼくたちの研修をより良い時間にできたらと思います。また、この研修という車をデザインする楽しさも、どんどん引き継いでいきたいです。

以上、ペパボの「新卒デザイナー研修」を鹿がお伝えしました。研修に関わっていただいたパートナーのみなさま、そして新卒デザイナーのぞえさんとはあちゃん、ありがとうございました〜!