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五感をフル活用する低予算空間デザインをした話

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ごきげんよう、福岡支社ホスティング事業部デザイナーの @keita_kawamoto です。 この記事では「僕がなぜ空間デザインをすることになったのか」「五感を活用した空間デザインとは?」「低予算で空間をデザインするコツ」をご紹介します。

  1. はじめに:空間デザインを担当することになった経緯
  2. 1Q四半期報告会・親睦会:お花見
    1. 限られた予算の中で、どのように実現させるのか?
    2. 考えたこと・調べたこと
    3. 五感を利用し、参加者を錯覚させる
    4. 購入したもの
  3. 2Q四半期報告会・親睦会:夏祭り
  4. まとめ:五感を活用し低予算で空間をデザインするコツ
  5. おわりに

はじめに:空間デザインを担当することになった経緯

ペパボでは毎年、春・夏・秋・冬と四半期に一度ずつ、業績の報告会と親睦会が行われます。東京本社・福岡支社それぞれで行われる報告会・親睦会ですが、福岡支社では今年から「報告会・親睦会を一味変えていこう」という動きが生まれました。その理由は、今年から「福岡盛り上げ隊」というものが結成されたからです。

福岡盛り上げ隊とは福岡支社の有志によって構成されたもので、デザイナー・エンジニア・CS・ディレクター・マネージャーと職種/階級問わず「福岡をもっとおもしろくしたい」という仲間たちがフラットに大集合。隊の目的として

  • ペパボの仲間の満足度の向上
    • ペパボでよかったぁー!と思ってもらえるようにする
    • 最高の体験をしてもらう
  • ペパボの仲間同士の関係性をつくる、深める
    • これまであまり交流することのなかったメンバーと交流することで輪が広がる
    • これまで交流していたメンバーとの仲がさらに深まる

というものがあります。端的に言えば「福岡最高すぎてマジでやばい」としていこうというものですね。

その一環として、前述の四半期報告会・親睦会で「最高の体験をしてもらおう」となったわけです。実行するにあたり担当分けがあり、そこで僕は「会場の空間デザイン」を担当することになりました。

これから、すでに行われた1Q(第1四半期)・2Q(第2四半期)の報告会・親睦会の空間デザインを実例に、どう実現させたのか?を簡単にご紹介します。

1Q四半期報告会・親睦会:お花見

1Qの報告会・親睦会では、春ということもあり「お花見」をテーマにしました。ただ社内で飲み食いをするだけでなく、「まるでお花見してるみたいだ!楽しい!」となってもらうことを目的としています。

限られた予算の中で、どのように実現させるのか?

「報告会・親睦会を一味変えていこう」となったのは春がもう目前のころで、すでに年内で使える予算は決定された後でした。「限られた予算の中で、どのように実現させるのか?」という状況です。おもしろくなってきましたね。

予算の大部分は、予定されていた飲食代です。その残りを使い、実現させます。まずやったことは「どのようなものにするか?」の思考です。参考資料をかき集め、隊で共有・検討を行いました。その検討をもとにメインオブジェクトとすることにした桜の木の購入先を探しつつ、平行して思考を続けます。空間は、光で決まると僕は考えます。人間の視覚が捉えるのは光と光の反射のみ。その光次第で、あらゆるものの見え方が変わります。次に行ったのは照明テストでした。

会場で照明テストをする様子

メインの蛍光灯をつけなくてもステージの照明だけで結構明るい。これは演出用の照明をいくつか買い足せば、いけると考えました。

考えたこと・調べたこと

  • 桜を1〜2本配置し、下からライトアップするだけで雰囲気は出ると思われる
  • 床についてはなんか中央だけでも敷きたい系で検討中
  • 食事がテーブルに並ぶ。前回の親睦会と同じくらいの量だとすると、長テーブル 8つ分ほど。そのテーブルに赤い布を敷くと花見感上がるのでは
  • 装飾する桜グッズを探したが、手頃な価格のものは手に入らなかった
  • 色が足りないので色付きちょうちんみたいなのをテスト
  • 雰囲気出せそうな音楽流してみるテスト
  • プロジェクターで花見映像や夜桜映像流すテスト

五感を利用し、参加者を錯覚させる

会場のメインオブジェクトとなる造花を手に入れました。しかしあくまで造花。すぐに作り物とわかり、本物には雰囲気では勝てません。そして会場は報告会の性質上、そして大勢の参加者の移動の大変さから屋外ではなく、屋内。本物の「お花見」とはかけ離れた条件下で、どのように工夫するか。「錯覚」を利用することにしました。

  • カーテンは全開にし夜景が見えるようにする。窓も開け夜風が入るようにする
    • カーテンやブラインドで閉ざされた空間ではなく、解放することで屋外の環境に近づける。風が吹けば、屋外と同じように肌でそれを感じ取ることができる
  • 造花は、お花見会場でよくあるような鮮やかな色の照明で照らし「ピンク」を強める
    • よくある演出によって、「それっぽさ」が増す
    • 「ピンク」が強まることによって、視覚的に桜の存在感を強調できる
  • Amazonで売っていた「作り物の桜の花びら」を会場に散らす
    • そう、まるで花咲か爺さんのように振りまきましたとも
    • 造花の桜の木の下に、多めに。テーブルの上含め(桜は上から散るから)その周囲、会場全体にランダムに振りまきました
    • 実は「桜の花びら」がもっとも重要な錯覚を引き起こす要素です。桜の造花を中心に振りまくことで、「まるで桜が散ったように見える」という状態を生み出せます
    • ただの造花なのに、花びらが散っていると、人間は過去の記憶から「あの桜の木から桜が散っている」と錯覚します。その錯覚は、造花を本物の桜に大きく近づけるのです
  • 食器は紙コップ・紙皿・割り箸にする
    • 手で触る道具が同じものであれば、本物のお花見のような環境に近づきます
  • 匂いについては、主に料理なので屋内・屋外関係ありません。特に工夫は要りませんでした
  • 音は、お花見会場で流れているような音楽を流します。これも、本物の外のお花見に環境が近づけるためです

このように、視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚という五感をフル活用し、本物の花見のような錯覚ができるだけ起きる状況を作りました。

桜の木の造花と、それを照らす照明、周りに散らばる作り物の桜の花びら

親睦会が進むにつれ散らかっていくのも、花見っぽい。

購入したもの

演出用のちゃんとした照明類を買っていては、すぐに予算オーバーになってしまいます。そこで、照明はホームセンターで安く売っていた裸電球とソケットを購入しました。そして会社の近くの文具・事務用品店で厚すぎず薄すぎない、桜色の紙を購入。その二つと土台の隠しダンボールだけで即席ランタンを作成。 表はランタンそのままの見た目ですが、裏側は紙をくりぬいてあり、より光が壁にあたり間接照明の役割を強化できるようにしました。

テーブルとランタンの様子

後ろに写っている宙吊りの四角いランタンも、針金、和紙、ホームセンターで買った素材、ビニールテープ等、同じように手作りしました。やっていることは小・中学生の図工の工作のようなものですね。

演出用に購入した全てのものは、以下です。

  • 試作ランタン用の半額セールのランタン
  • 量産型ランタン・吊り下げ型ランタンのための紙類ほか材料、その他テスト用素材など
  • メインの桜を照らす用のピンクエンビパネル+ダイソーの薄いダンボールシューズボックス
  • メインの桜をサブで照らす用のヘッドライト(テーブルに置いて利用)
  • 照明・装飾用の電球とソケット
  • 吊り下げランタン固定用クランプとクリップ
  • 作り物の桜の花びら
  • 桜の造花(木・枝)
  • 造花を飾るための花瓶類
  • 各所の内側で利用したダンボール類
  • 針金

テーブルクロスは、ケータリング会社さんから無料でお借りすることができました。本当に感謝。

2Q四半期報告会・親睦会:夏祭り

夏祭りといえばラムネ

2Qの報告会・親睦会では、夏ということもあり「夏祭り」をテーマにしました。さらにその中でも「町内会の夏祭り」をイメージしました。町内会の夏祭りは、「低予算」「派手さは控えめ」「でも楽しい」という求める状況にかなり近かったからです。

前回のメインオブジェクトは数万円する桜の木の造花でしたが、それを購入できたのは年度の切り替わりである春だから特別に予算が多かったため。春以外は予算はあまり確保されていない、という状況です。これからはメインオブジェクトに1万円台の予算を割くことはできません。

そしてちょうどその頃、福岡支社のワンフロアがペパステ(ペパボ天神ステージ)として大幅アップデートを完了した頃でした。 「ハイテーブル」よばれる物が常備されるようになりました。この高さ…利用しない手はない。

春の桜に対し、今回のメインオブジェクトは「お祭りの屋台」とすることに。決定した後、ちょうど会社の近辺でお祭りをやっていたので、徹底的に観察するために出かけました。

屋台の組み立て

ハイテーブルに傷を残さないようダンボールによる保護カバーを挟みつつ、ホームセンターで購入してきた木材をカットし、骨組みを組み立てます。ここで重要なのは強度です。酔っ払ったメンバーが寄りかかったとき崩壊しないようにしなければなりません。つなぎ目はパズルのようにジョイントできるよう加工し、ビニール紐で固く巻きしっかりと固定します。天井にはすだれを置き、夏の要素を増やします。春に使った吊り下げ型のランタンは、電球が裸の状態になるようにカバーを取り外し、屋台の照明っぽくなるよう「屋台の前方に」配置します。前方に配置するのは、屋台の看板が逆光で見えなくなるのを防ぐためです。

その後、看板をダンボールとプリントした装飾で作成して取り付けてしまいます。会場に黒板の壁が新しくできたので、今回それもフル活用しました。ちょうちんの少なさをカバーします。

福岡盛り上げ隊がせっせと会場設営をしている様子

夏祭りならではのコンテンツとして、今回遊戯場も作成します。遊戯店に関しては遊戯店チームに任せていたので、どうなるのか楽しみです。

完成した屋台

そして完成しました。今回、屋台にかかった金額は7,000円ほどでした。ハイテーブルという土台があったこと、本社からイベント用のお祭りグッズを届けていただけたことでだいぶコストカットすることができました。写真の左に見えているかき氷の旗は、作成したその図を印刷したただのA4用紙です。注視するか、触らないと気づかない。「演出」という目的に対してはそれで十分なんです。

夏祭りでもお花見のときと同じケータリング会社さんにお願いしたのですが、お花見を楽しんでいただけたらしく、夏祭りでは夏祭りに最適な食事のラインナップをご提案・ご提供してくださいました。最高過ぎる。りんご飴最高。

楽しんでいるペパボの仲間たち

綿菓子機をレンタルし、バババババという発電機の音が鳴り、さらにお祭りの音頭がBGMとしてスピーカーから会場全体に流れ、夏らしさを演出します。屋台からの焼きそば・たこ焼きなどのいい香りが漂う中、遊戯店では射的と型抜きで楽しそうに遊ぶ面々が。テーブルに新聞紙を敷いてそれらしさを演出するのは遊戯店チームのアイデアです。

射的の景品は実際に夏祭りでもらえるものが多く、賞品を獲得した仲間たちが持ち歩くと、それだけで会場に祭りらしい雰囲気がプラスされます。

綿菓子を食べる二人

ステージで行われるイベント

ステージではイベントが行われ、それに注目する会場の面々。 ステージは華やかにできるよう、本社からのイベント用お祭りグッズに含まれていたちょうちんを飾り付けました。

屋台の内側から見た光景

予算の関係上、夏の親睦会では1,000円で「お食事券 兼 遊戯券」というチケットを販売しました。 僕は当日、屋台の店番のお手伝いもしたのですが、そのチケット片手に楽しそうに食べ物を交換に来る面々を見たとき、とても嬉しくなりました。「チケットと交換で、焼きそばやたこ焼きを渡す」。なんだか本当のお祭りみたいだなと感じたからです。

屋台の内側には、照明と風鈴を吊り下げ、屋台感・夏の雰囲気をプラスしました。

まとめ:五感を活用し低予算で空間をデザインするコツ

最後に要点をまとめます。

  • 空間デザインは会場の把握と、テーマに関する調査と、材料に関する情報が大事
  • コストをかけず材料を揃えるためには、足を使う
  • 視点を変えれば、このような工夫ができないか?とあらゆる可能性を探る
  • 光を主役に錯覚を用いて五感を刺激すると、空間を華やかに演出できる

空間デザインもWebデザインも「課題を解決するためにどのように設計をするか」です。違うようで、根本は全く同じなんですね。そして「低予算という制限が良い空間デザインのアイデアを生むこともある」というのが一番の気づきです。とてもおもしろかった!

おわりに

いかがでしたでしょうか。これはお金をかけた空間デザインとは比較にならない、粗末なものです。しかし、後日報告会・親睦会の感想のアンケートを見たところ、限られた条件の中で頭を使い、錯覚を利用し工夫したこの空間デザインは「最高の体験をしてもらう」という目的を達成できたように感じました。