こんにちは。技術基盤チームのけんちゃんくんさんです。
今年からはGMOペパボオーシーの ハンドメイド・手作りマーケット tetote(テトテ) の技術支援を行っており、その一環としてプラグマティック・ペルソナを作るワークショップをやってみました。
プラグマティック・ペルソナを作るに至った背景と目的
当初は、本物のペルソナを作ることで私達が本当に注力すべきユーザ層を明確にし、意思決定の根拠を固めてスピードを上げることを目的としていました。
しかしながら、書籍やWebでペルソナそのものに関する情報を集めていくにつれて、私達がまだペルソナを定義するだけの情報を整理しきれていないことと、それをするためには膨大なデータと分析する時間が必要であることがわかってきました。さらに、チームメンバーはだれもペルソナ作りを経験したことがなく、このままでは大切な時間とリソースを効果的に使うことができないのではないかと思いました。
そんなときに出会ったのがプラグマティック・ペルソナでした。
プラグマティック・ペルソナとは
本物のペルソナは、蓄積された大量のデータやユーザへのインタビューからパターンを発見し、それを肉付けし育てることで定義されていきます。
一方でプラグマティック・ペルソナは「偽のペルソナ」とも呼ばれており、実際のデータやユーザの生の声ではなく 開発チームが想像するターゲットユーザ を擬人化したものです。
ユーザビリティエンジニアリング(第2版)―ユーザエクスペリエンスのための調査、設計、評価手法―: 樽本 徹也 ではプラグマティック・ペルソナを使う上のルールとして3点が上げられています。
- みんなで作る
- "偽物"であることを明示する
- 依存しない/固執しない
また、あくまでも架空の存在ですので、作成するのに時間をかけすぎないこと、機能の優先順位付けには利用しないことが大切であるとも言われています。
本物のペルソナか、プラグマティック・ペルソナか
前述の通り、ペルソナについて知れば知るほど準備が足りていないことがわかってきました。そんな中で出会ったプラグマティック・ペルソナ作りには次のようなメリットがあると考えました。
まず、未経験のチームであっても現実的な時間でペルソナ作りのエッセンスを学ぶことができます。次に、ワークショップを通してチーム全員がユーザへの理解が深まることが期待されます。さらに、完成したプラグマティック・ペルソナは本物のペルソナのように使えませんが、チーム内でのコミュニケーションで役立つことでしょう。
また、もしも将来本物のペルソナを作ることになった場合にも、プラグマティック・ペルソナ作りで学習したことは無駄にはならないでしょうし、短時間での練習ような気持ちでやってみることにしました。
プラグマティック・ペルソナ作成ワークショップ
前述の通り全員が初めてのペルソナ作りだったのですが、最終的には、2時間程度で以下の項目を埋めた4人のペルソナが完成しました。
- 通り名
- 年齢
- 性別
- 職業
- 住んでいる地域
- 家族構成
- 世帯年収
- tetoteで探しているもの
- よく使うアプリやサイト
それでは、試行錯誤の繰り返しだったワークショップの過程を紹介します。
年齢、性別を決める
年齢や性別は、実際のデータからいくつかのパターンを出しました。これらの項目は会員登録の項目に含まれている場合も多いですし、アクセス解析ツールなどでもある程度把握することができます。いくら偽物とは言え、すぐにわかる情報であれば本物のほうがよいのは間違いありません。
まずは20代、30代のような分類をし、それと性別を掛け合せて会員の上位6パターンを抽出しました。その後、これから注力していきたい層として4つに絞り込み、細かい年齢を適当に決めていきました。
家族構成と住んでいる地域を決める
次に、年齢と性別が決まった4人について、どういう家族構成なのか、どこに住んでいるのかといった情報を考えました。
ここも実際のデータが簡単に使えるところです。登録情報やアクセス元などから地域の候補を上げ、年齢や家族構成を考えながら特定の地域に偏らないように決めていきました。
世帯年収を決める
家族構成を考えているところで「この人はお金もってそう」という話から世帯年収を考えてみることにしました。これを決める過程の議論がチーム内でのペルソナのイメージを共有するのにとても役立ちました。
世帯年収を考える上では、その人の職業だけでなく、配偶者の職業を考える必要があります。その過程で「この人はどういう出会いをしたのか」「この地域でこれくらいの年収だとどういう仕事をしているか」といった議論が進み、常識を逸脱しない範囲でのプロフィールの設定ができたように思います。
また、インターネットには都道府県や年代毎の平均年収がまとまっているような資料がいくつかありますので、そういったものをベースにすると現実味がでてきますし時間の短縮にもなります。
tetoteで探しているものを決める
ここまでで基本的なプロフィールができあがってきたので、私達のサービスをどう使っているのかを考えてみることにしました。
今回は「ハンドメンド作品を買う側」のペルソナを考えていたので、探している商品のカテゴリーなどがイメージしやすそうです。
どういう商品を探しているかという議論の中で、よい視点だと感じたのは「知り合いにあげるオシャレなものを探している」というものです。商品のカテゴリーやジャンルだけでなく、こういった視点があると新しくチームに入ってきた人がユーザを理解するのに非常に役立つように感じました。
よく使うアプリやサイトを考える
30days Albumのエンジニアである@june29 さんが、いろいろな人のスマホのホーム画面を集めていたのをワークショップの中でふと思いだしました。
今回のペルソナ達はインターネットに日常的に触れている人が多かったので、他にどういうサービスを使っているのか、スマホのホーム画面にはどういうアイコンが並んでいるのかというのを考えてみました。
この過程で、今回のワークショップ最大の発見があったのですがそれは後述します。
通り名をつける
最後に、tetoteのプロデューサーにペルソナの名前を決めてもらうことにしました。上で紹介したユーザビリティエンジニアリングでは「英語では"韻"を踏んで名付けることもある」と書かかれており、これを参考にして「通り名」でお願いしますとリクエストしました。
最終的に決まった名前を紹介します。
- 雑貨好きのなおみ
- 安定のめぐみ
- 犬好きのかずえ
- 器用なあや
いかがでしょう?
ワークショップに参加した人はもちろん、初めてみる人も名前を聞いてからプロフィールを読んでいくと、ペルソナのイメージがどんどん鮮明になっていくよい名前ではないかと思います。
ワークショップの成果物
今回のワークショップでは、当初期待した以上の学びと、最終的なアウトプットとしての4人のプラグマティック・ペルソナが完成しました。
ワークショップでの学び
私を含め新しいメンバーは、ワークショップをやる前とは比べものにならない程、サービスのユーザについての理解が深まりました。また、私達のサービスで何を探しているのか(どういう問題を解決しようとしているのか)といった議論は、チームの共通認識を作る上でも価値あるものでした。
しかしながら一番の収穫は、プラグマティック・ペルソナを作る過程で 私たちはユーザのことをわかっていない ということを実感を持って学習できたことだと考えています。
私達は、ペルソナのスマホのホーム画面にどういうアプリのアイコンが並んでいるのか、ぱっと答えられませんでした。誰もが使うようなウェブサービスを除いて、このペルソナだからこそ使うようなサービスをさっとあげることができませんでした。
基本的なプロフィールや数字から見えてくる以上の、ユーザの生活感というようなものを整理できていなかったのです。
これをきっかけとして、プロデューサを中心としたユーザ理解のための活動が動きだしました。
プラグマティック・ペルソナを軸としたコミュニケーション
プラグマティック・ペルソナは架空の存在ですので、使用にあたっては注意すべきポイントがあるのは前述の通りです。ではどういったところで利用すればよいのでしょうか。
まずは、「ユーザ」や「会員」といった言葉の変わりとしてプラグマティック・ペルソナを使うことで、コミュニケーションロスを減らし、意図をより正確に伝えることができるようになるのではないかと期待しています。
tetoteはC2Cのツー・サイド・プラットフォームであり、今までは「売り手」「買い手」という表現でユーザを分類していました。要件や機能を決める際には「売り手に向けた○○機能」や「買い手の○○問題を解決する」といったコミュニケーションがよく行われていましたが、これをプラグマティック・ペルソナの名前に変えることで、問題の解決方法やユーザインタフェースの設計が具体的かつ効率的に進められるように思います。
また、今回は一部に実際のデータを利用したこともあり、今私達のサービスを利用してくれている中心は誰なのかというのが明確になりました。今後の施策を考える上でまず最初に考えるべき層に名前がついたというのは、今後の開発の大きな道標になってくれると感じています。
まとめ
tetoteで実施したプラグマティック・ペルソナ作成ワークショップについて、実施した背景からプロセス、それを通したチームの学びと成果物を紹介しました。さらに、ワークショップを通した学びから新たな活動がはじまり、成果物を使ってコミュニケーションが改善されるであろう期待について述べました。
プラグマティック・ペルソナは、短時間でチームの共通認識を作るだけではなく、チームがユーザのことをどれだけ理解しているかということを気付かせてくれます。まだペルソナ作りに挑戦していないのであれば、まずプラグマティック・ペルソナ作りにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。