CTO室研究開発チーム(ペパボ研究所)の三宅(@monochromegane)です。2026年4月より、シニア・プリンシパルエンジニアになりました。このエントリーでは、昇格にあたっての所信表明と、その背景にあるペパボのエンジニア評価制度について書きます。
所信表明
シニア・プリンシパルとして、AI前提のサービスの実現に尽力していきます。サービスの中にAIや機械学習が自然に組み込まれ、利用者の体験がそれによって継続的に良くなっていく。そういうサービスのあり方を各サービスで具現化することに加え、それが自分一人の力ではなくプロダクト開発のあり方として定着する仕組みを築いていくことが自分の役割だと考えています。サービスそのものだけでなく、それを支える開発の営みも含めた全体が適応的に動いていく。これはペパボ研究所が掲げる「なめらかなシステム」の体現に他なりません。
この目標に向かう中で、大切にしていることがあります。会社の外にある基準を知った上で、会社の中で生かすということです。
ここでいう外の基準とは、学術研究に限った話ではありません。国際会議やジャーナルで議論されている最先端の手法、OSSコミュニティで共有されている設計思想、業界全体の技術トレンド。世界がいまどこまで進んでいて、どういう原理で動いているかを知ることです。一方で、それを生かす「中」とは、自社のサービスが持つ歴史、利用者の行動、蓄積されたデータ、運用上の制約、事業としての文脈です。
どちらか一方だけでは足りないと考えています。会社に長くいて業務に精通していても、外を見なければ既存の枠内で最適化するにとどまります。逆に、新しい技術や方式をよく知っていても、サービスの文脈を理解していなければ、提案は着地しないまま終わります。両方を自分の中で統合して初めて、その会社でしか生み出せない、事業を差別化する技術になります。その統合の先に、継続的に学習し適応していく仕組みが選択肢として自然に検討される土壌をつくること。研究と開発の両面から、この橋渡しを担っていきます。
ペパボのエンジニア評価制度
ペパボのエンジニア専門職にはシニアエンジニア、プリンシパルエンジニア、シニア・プリンシパルエンジニアの3段階があります。評価は「作り上げる力」「先を見通す力」「影響を広げる力」の3軸で行われます。
特徴的なのは、立候補制であることです。候補者自身が「いまの自分は既にその等級の水準で行動できている」と判断し、それを示す資料を自ら準備して臨みます。資料では3軸に対する実績を示すだけでなく、これまでの取り組みにおいて何を課題として捉え、どのような技術的・組織的アプローチで取り組んできたのかを自分の言葉でしっかり述べることが求められます。点数で測れる部分だけでなく、自身がどういうエンジニアであるかを総合的に示す場です。なお、立候補資料とその評価結果は社内に公開されます。
今回、自分自身が立候補資料を準備する中で、この制度の良さをあらためて実感しました。というのも、これまでの取り組みを言語化する過程で、なぜうまくいったのか、どうすれば再現できるのかが整理され、再現性のある方針ややり方として自分自身の意識に顕在化するからです。顕在化したものは、これからの取り組みにおいても意識的に再現できます。
そして、この立候補と言語化の営みは、いわば判例として制度に蓄積されていきます。過去に昇格した人々がどのような実績と能力を示したかという具体的な判例が、次の候補者の基準にもなります。それぞれの判例が示す「実現の仕方」は、その時代の技術や事業環境を反映しています。そのため、判例が積み重なるほど、評価制度自身が時代に合った形で成長していきます。時代を超えた普遍的な要件と、時代に即した具体的な判例の両方で成り立っているからこそ、制度が陳腐化しないのだと考えています。
おわりに
自分はもともとサービスの運用開発を担当するエンジニアでした。2015年、プリンシパルエンジニア(当時の名称はアドバンスドシニアエンジニア)への昇格時に、CTO の栗林(@kentaro)から次のようなフィードバックをいただきました。
「技術的に・サービス的にこうあるべき」という強い理想からというより、業務をきっちり回すという面から発想している。発想のモードを広げるのがよいでしょう。
振り返ってみると、その後の10年はこのフィードバックに応えていく過程だったように思います。2017年にペパボ研究所の研究員となり、2020年に九州大学大学院博士後期課程に入学しました。研究と並行して、学んだ手法をサービスに適用する試行錯誤も重ねてきました。2024年には「多様かつ継続的に変化する環境に適応する情報システム」をテーマに博士(情報科学)を取得しました。研究の過程で身につけた、課題を定式化し仮説を立てて検証するという方法論と、それまでのサービスへの適用の試行錯誤の蓄積が合わさって、ようやく複数のサービスで実際に成果の出る仕組みとして形になってきたのがここ最近のことです。
業務をきっちり回すという強みは失わないまま、技術的にこうあるべきという発想のモードを獲得できたのではないかと思っています。歴代のシニア・プリンシパルの方々は、セキュリティ、インフラ、サービス開発など、それぞれ固有の専門性で会社の技術を前進させてきました。自分もまた、AI前提のサービスの実現とそれを支える仕組みづくりという形で、この系譜に自分なりの判例を加えていきます。やっていきます。