はじめに
GMOペパボとカバー株式会社(以下カバー社)との共催イベント「カバーとGMOペパボが語る、クリエイターの創作・表現活動を支える技術」を2025年11月5日に開催しました。 本記事では、クリエイター支援を技術面から支える両社の取り組みと、当日のLT(ライトニングトーク)セッションのハイライトをレポートします。
イベント概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| テーマ | 「新しいクリエイターの表現を支える技術」 |
| 日時 | 2025年11月5日(水)19:00 〜 |
| 対象聴講者 | エンジニア、クリエイター支援技術に興味のある方々 |
カバー株式会社について
カバー株式会社は、世界最大級のVTuber事務所「ホロライブプロダクション」を運営し、タレントの創作・表現活動を支える多様な技術を自社で開発しています。「つくろう。世界が愛するカルチャーを。」をミッションに掲げ、ライブ配信システム、3Dモデル制作・演出、モーションキャプチャ、リアルタイム制御など、エンタメ領域ならではの高度な要件を扱う技術基盤を有しています。
同社は、先端技術を取り入れながら新しい演出表現を追求することと同時に、技術的安定性とパフォーマンスの重要性を同社のテックブログで強調しています
今回のイベントは、GMOペパボとカバー社の両社が日々向き合っている「クリエイターの表現活動を支援する」という共通テーマを語り合う場として企画されました。 GMOペパボが持つ“クリエイター支援サービスの開発経験”とカバー社が蓄積してきた“リアルタイム表現を技術で支える知見”のそれぞれの実践を共有し合い、懇親会では活発な意見交換を行いました。
登壇内容ハイライト
本セッションでは、GMOペパボ・カバー社両社から各4名、計8名のエンジニアが、5分のLT形式による発表を行いました。
GMOペパボの発表
1. 「ブラウザストレージを活用した配信画面デザインツール Alive Studio の仕組みと設計について」
事業開発部 AliveProjectチーム エンジニア 永田

- 配信画面デザインサービス Alive Studio byGMOペパボが、OBS Studioのブラウザーソース機能を利用したWebアプリケーションであることを前提に、ローカルストレージとストレージイベントを用いてデザインエディタと配信画面のリアクティブなドキュメント同期を実現し、既存のユーザー設定に干渉しないフレキシブルな設計を採用されている仕組みが紹介されました。
2. 「minne byGMOペパボのショート動画基盤の設計と運用改善」
minne事業部 プロダクト開発チーム シニアエンジニア 湯村

- ハンドメイドマーケット minne byGMOペパボのショート動画基盤は、署名付きURLによるクライアントからのS3ダイレクトアップロードと、AWS SQSやLambdaなどを用いたイベント駆動型の非同期処理パイプラインにより、ユーザーを待たせない設計を実現しており、運用面ではFFmpegのCRFパラメータ調整による画面ごとの動画品質最適化や、デッドレターキューを活用した堅牢なエラーハンドリングを適用されている状況が説明されました。
3. 「SUZURI byGMOペパボの規約違反チェックにおけるクリエイタフィードバックの試行錯誤」
SUZURI事業部 マーケットプレイスグループ マーケティングチーム エンジニア 渡辺

- オリジナルグッズ作成・販売サービス SUZURI byGMOペパボにおける規約違反デザインの自動チェック(GPT-4.1による違反判定)後のクリエイターへのフィードバック改善のため、Gemini 2.5のセグメンテーション機能を活用し、判定根拠に基づき違反箇所を画像内のマスクデータ(JSON形式のベース64エンコード)としてピンポイントにハイライト表示することで、クリエイターの迅速かつ適切なデザイン修正を支援する仕組みを試行されている状況が報告されました。
4. 「Server-Driven UIで frontend の複雑性に立ち向かう」
ロリポップ・ムームードメイン事業部 forGamersチーム リーダー 中田

- ロリポップ!for Gamers byGMOペパボのゲーム設定管理画面が抱える、ビジネスロジックに起因するフロントエンドの複雑性と頻繁なゲームアップデートへの対応コストを解決するため、Server-Driven UI を導入し、UIをレイアウト要素としてサーバーから返却することで、ビジネスロジックのサーバーサイド管理を徹底し、クライアント側のコード削減と迅速なUI変更を可能にされた設計が紹介されました
カバー社の発表
1. 「手戻りの少ない開発を目指してスクラムでやっていること」
クリエイティブ制作本部 技術開発部 第二開発チーム サブマネージャー 諏訪

- ホロライブアプリ開発におけるスクラムの実践として、スプリントレビューでの動くものを用いた要求とのずれの早期発見、スプリントプランニングでの完了の定義の明確化とスコープガード、およびレトロスペクティブでの課題や成功要因の共有を通じて、手戻りの少ない開発フローを確立されている事例が紹介されました。
2. 「ホロライブアプリにおけるOSCの活用方法」
クリエイティブ制作本部 技術開発部 第二開発チーム エンジニア 清水

- ホロライブアプリでは、Open Sound Control (OSC) プロトコルを介し、iPhoneからのリアルタイムなフェイストラッキングデータやStream Deckを用いた表情・ギミックの制御、さらにVMCプロトコルによるボディトラッキングデータの取り込みを実現することで、タレントの高度な表現活動を技術的にサポートしている仕組みが解説されました。
3. 「スタジオ3D配信用、デザイナー向けギミック実装ツールの紹介」
クリエイティブ制作本部 技術開発部 第一開発チーム エンジニア 堀家

- スタジオ3D配信におけるギミックの実装フローにおいて、エンジニアの作業負担軽減と手戻り防止のため、Unityのエディター拡張として開発された「ギミックエディター」をデザイナーに提供することで、詳細なコミュニケーションコストを削減し、デザイナーの意図を直接反映させる開発フローを構築された事例が紹介されました。
4. 「カバーの配信で利用されるShader - HoloToonに関して」
クリエイティブ制作本部 技術開発部 アートエンジニアリングチーム エンジニア 門田

- カバーの配信で利用されるカスタムシェーダー「HoloToon」は、ディゾルブ機能、高品質なアウトライン、顔や髪の影といったコアなトゥーン表現を備え、社内アプリや外部コラボレーションといった多様な利用環境における互換性と再現性の制約を考慮しつつ、タレントの3Dモデル表現を一貫して支えていることが詳細に解説されました。
全体を通して
各発表に共通していたのは、技術が単なる機能提供ではなく、その先にある表現者やその表現活動にまで地続きに繋がっている点だと感じました。前提や制約を丁寧にひもとき、クリエイターの「こうありたい」を支える構造へ落とし込む姿勢や凝らされた工夫が印象的でした。
また、LTだけでなく懇親会も含めた今回のイベントは、ソフトウェアエンジニア・クリエイター・配信者といった多様な参加者が同じ視点に立ち、「高品質な表現を支えること」を語り合う場になりました。
当日の様子は、ハッシュタグ #カバーGMOペパボ交流会 でもご覧いただけます。
おわりに
イベント後のアンケートでは、業務に活かせる内容が多かったという声や、新しい繋がりが生まれたといった嬉しい声を多数いただき、技術交流の場として意義深いイベントとなりました。
今回のような技術交流を通じて、クリエイター支援の未来をより良いものにしていきたいと考えています。次回開催についても検討しておりますので、今回は参加できなかった方、見逃しておられた方もご期待ください。