生成AI OpenAI 勉強会 鹿児島

鹿児島工業高等専門学校で『AI基礎』の出張授業をやってきました

生成AI OpenAI 勉強会 鹿児島

はじめに

こんにちは、CTO室鹿児島エンジニアリングチームの@kurehajimeです。 普段はカラーミーショップの決済周りの開発を行っているWebアプリケーションエンジニアです。 2024年1月17日、鹿児島工業高等専門学校(以下、鹿児島高専)に『AI基礎』というテーマで出張授業に行って来ました。

自分はWebアプリケーションエンジニアなので、勉強会のハンズオンやOBとしての講演はともかく、学校で授業するというのは今回が初めての体験です。 この記事では、授業内容を考えるうえで工夫した点などをまとめたいと思います。

ターゲットとコンセプト

授業をする上でまず考えたのは『ターゲット』と『コンセプト』です。

今回のターゲット、つまり授業を行う対象は、鹿児島高専の機械工学科2年生です。 機械工学科なので専門は機械系で、ネットで公開されているシラバスによれば『情報I』と『情報II』の授業は3年次から行うようです。2022年度から始まったこの『情報I・II』という科目は職業ITエンジニアが見てもびっくりするほど高度な内容で、これを前提とするかしないかで大きく変わってくるのですが、今回は2年生が対象なので前提としない方が良さそうです。それを踏まえ「AIのソフトウェア的な詳細を深掘りする」というよりは、「AIはもはやソフト畑の人間だけのものではないですよ」とAIを自分事として捉えるきっかけ作りに焦点を当てた方が良いのではないかと判断しました。そもそも自分の本業はWebアプリケーションエンジニアなのでLLMの実装の詳細を詳しく説明できません。

そのうえで、コンセプト(今回の授業で持ち帰ってもらいたいこと)を以下の2点に設定しました。

  • 現在のAIの得意・不得意な部分を実感してもらう
  • 自分の得意分野をAIを使って伸ばし自分の苦手分野をAIを使って補う第一歩を踏み出してもらう

自分は高専生に「興味を持ちさえすれば自ら進んで学習し、自走していける人々」というイメージを持っています。 なので「この授業によってAIに興味を持ってもらうこと」を授業の成功と定義しました。

授業内容

授業内容は以下の通りです。

  • 座学
    • なぜいま生成AIが騒がれているのか
    • AIの歴史を振り返る
    • 最近話題の大規模言語モデル(LLM)はこれまでと何が違うのか
    • LLMを支える技術
  • 実習① テキスト生成AIを使ってみよう
  • 実習② 画像生成AIを使ってみよう
  • さいごに

講義時間は90分で、前半が座学で後半が実習です。以下にひとつひとつ掘り下げていきたいと思います。

座学

最初に「いま生成AIが急速に社会に浸透してるよ。弊社でもたくさん使ってるよ。皆さんの将来にも影響があるよ。」という趣旨の話を持ってきました。これは「ソフトウェアの話だから機械工学科の自分には関係ない」という考えを最初に打破して興味を持ってもらう狙いです。

続けて第一次、第二次、第三次AIブームの歴史、そして間に挟まる冬の時代についての解説を行いました。「今の生成AIはとてもすごいよ」といくら騒いでもなかなかピンと来ないと思うので、昔のAIにはどのような欠点があり、そしてそれがどのように克服されていったのか背景を解説しました。

そこから現代の話に戻り、第三次AIブームの前半戦と今起きている生成AIブームの違いの話をしました。第三次AIブームで起きたビッグデータによる革命は、大量のデータと計算資源を持つ組織をエンパワーメントした一方で、大量データも計算資源も統計の知識も持たない人には なかなか利用の敷居が高いものでした。一方で生成AIは、(モデルの作成に膨大なデータと計算量を必要とするものの)エンドユーザーにとっては利用の敷居が格段に低く少量のデータしか持っていなくても様々な分野に応用できる柔軟性があるので、「もうAIは一部の人のものではなくなった」と言え、まさにゲームチェンジが起きているという話をしました。

そして最後に生成AIを支える技術について『次単語予測』と『word2vec』をピックアップして取り上げ、生成AIの中身をイメージしやすいよう技術の中身を少しだけ掘り下げました。

実習① テキスト生成AIを使ってみよう

テキスト生成AIを使った実習の様子

1つめの実習では、5つのテーマについて『ChatGPTで調査する人』と『人力(+検索エンジン)で調査する人』に分かれて調べ物をしてもらい、その結果を比較する実習を行いました。

テーマは以下の5つです。

1. ミッキーマウスの著作権が2024年に『切れる』理由&『切れない』理由
2. サザエさん、ちびまる子ちゃん、クレヨンしんちゃんを絡めて戦後の日本社会の変遷について述べよ
3. WiiUとSwitchは似たコンセプトのゲーム機なのに、なぜWiiUの売上が伸び悩みSwitchが大成功したのか、両者の命運を分けるのは何だったのか
4. 動物にまつわる5・7・5の俳句をできるだけたくさん作る or 集める
5. NetflixとAmazon Prime、それぞれの代表的な独占タイトルを調べよ

①は複雑な事実関係の整理です。ミッキーマウスの著作権が2024年に「切れる」とする情報も「切れない」とする情報もネットを調べれば大量に見つかります。それらを整理して結論を導き出す論理的な思考力が求められます。

②と③は明確な答えが出せない主観も入る論説文を求めるもので、洞察力や背景情報への幅広い知識が求められます。③の質問はもともと「Nintendo64がPlayStationにシェアで敗れてしまった要因を述べよ」という問題を考えていたのですが、高専の2年生に「Nintendo64ってなんですか?」と言われると64世代としてショックが大きいので、題材をWiiUにしました。

④は言葉遊びです。ChatGPTの無料版(GPT-3.5turbo相当)の能力では5・7・5のフォーマットに沿って俳句を作るのは難しいので、生成AIにも苦手なことがあるという点を実感してもらう意図で出題しました。トークン単位で思考するからか、英語で考えているからなのか、ChatGPTに俳句を作らせるのはとても難しいので皆さん挑戦してみてください。

⑤はChatGPTの情報の古さについて実感して貰いたい意図で出題しました。Pro版だと検索エンジンにつながるのでまた事情が変わってくるのですが、ChatGPTの無料版を使う上ではここは押さえておいて貰いたいポイントです。

実習② 画像生成AIを使ってみよう

画像生成AIを使った実習の様子

2つめの実習では、5つのテーマから1つを選び、Bing Image Creatorを使って画像を作ってもらいました。

1. 下手くそが書いたモナリザ
2. ライトセーバーを持つ忍者猫
3. 猫年の年賀状
4. 雲の上でピアノを弾くゾウ
5. 『いらすとや』に絶対ない画像

②と④は、画像生成AIの凄さを実感してもらうために出題しました。この世に存在しないような画像でも簡単に作れてしまう、という体験を味わえるテーマです。

③と⑤は、作る人の個性が光る大喜利です。生成AIを通じて自己表現をしてもらう意図で出題しました。

①は、DALL·E 3が苦手とするタスクです。意外なことに、DALL·E 3は上手な絵はいくらでも描けるにもかかわらず、下手な絵をわざと描こうとしてもなかなかできないのです。プロンプトをどんなに工夫しても整った絵が描かれてしまいます。学習データが偏っているのか、強引に完成度を高めてしまうプロセスが途中で挟まっているのかもしれません。

こちらは学生の方々が生成した作品の一例です。

ライトセーバーを持つ忍者猫 下手くそが書いたモナリザ 猫年の年賀状

終わりの言葉・注意事項

冒頭のコンセプトで挙げた内容、そして生成AIを使う上での注意事項を説明しました。

法律やルールを守って利用することは当然重要ですが、ルールを守りさえすれば何をやっても許されるということではありません。特にこの分野は社会全体で共通のコンセンサスが取れているとはまだ言えない状況です。

まとめ

授業準備の段階では、授業の方向性、難易度のさじ加減、時間配分、いろいろ悩む部分がありました。

当日の授業では、学生の方々が実習で提出したアウトプットからそれぞれ個性が感じられ、自分にとって非常に楽しい体験となりました。