ペパボ やっていき

GMOペパボのやっていき2021

ペパボ やっていき

明けましておめでとうございます。CTOのあんちぽです。新年ということで、書き初め的な感じで始めてみました。

ところで、GMOペパボ株式会社(以下、ペパボ)は、おかげさまで2020年12月11日に東京証券取引所第一部銘柄に指定されました。それを受けて、社長のケンタロさんが「東証一部企業となったGMOペパボの新たな挑戦とは。2021年の意気込みを社長に聞いてみた - ペパボHRブログ」という記事で、あらためてやっていきを述べています。

この記事では、CTOとしての観点からのやっていきを述べてみたいと思います。

ペパボは人類のアウトプットを増やす

採用面接の際に、志願者の方からペパボの今後についてご質問をいただくことがよくあります。その時に僕がいつも話している「今後の話の前に、そもそもペパボというのは……」という内容を、まずは述べてみたいと思います。

ペパボの沿革についてはコーポレートサイトの沿革を記したページに記載されています。これを見ると、あらためていろいろやってるなあと思うわけですが、単にいろいろやっているだけではなく、取り組みを通じて見いだされる「筋」が実はあります。その「筋」とは何か?ペパボは人々の「アウトプット」を支援することをずっとやってきたということだろうと思っています。

2001年、まだペパボという会社ではなかった時代に開始した「ロリポップ!レンタルサーバー」は、ホームページを持つことが個人にも普及しつつあった中で、安価かつ簡便に誰でも自己表現できるプラットフォームを提供開始しました。その後、2004年の「ムームードメイン」、2006年の「ヘテムル」、2017年の「ロリポップ!マネージドクラウド」と、約20年ものあいだ一貫して、お客様のネット上での表現を支えてきました。

クリエイターの表現活動を支援する活動も継続的に行ってきました。2012年にリリースしたminneは、ハンドメイド作品の蚤の市をネット上で行えるようにしたいという思いから始まった、ものづくりをする人々のためのプラットフォームです。また、2014年に開始したSUZURIもまた、イラストを中心としたクリエイターの皆様に対して、作品を届けるオルタナティブな手段を提供するサービスです。このように、クリエイターの表現活動の支援も行ってきました。

「アウトプット」というと、文芸や美術・工芸的活動に関するイメージが強く喚起されるところではありますが、ECもまたアウトプットのひとつであると思います。しかも、金銭を通じて価値をやり取りするという行為は、アウトプットのうちでも、ある意味ではかなり濃密な形の価値交換なのではないでしょうか。その意味で、2005年に開始した「カラーミーショップ」もまた、人々のアウトプットを支援・推進してきたサービスであるといえるのではないかと思っています。

今後もペパボはこの方向性を変えることはないと思います。むしろ、ケンタロさんが「人類のアウトプットを増やして、もっと主役を増やしたい」と書いている通り、人々の範囲を「人類」にまで広げて、もっともっとアウトプットを増やしていきたいというところです。

コロナ禍とDXとペパボのサービス

上述した通り、ペパボはその前身法人の頃から20年近くにわたって、インターネット上での人々のアウトプットを増やす支援をしてきました。2011年には「インターネットで可能性をつなげる、ひろげる」というミッションとして定め、引き続き邁進しているところです。

ところで、2020年からいまも引き続いて猛威を奮っている新型コロナウィルスの感染拡大にともなう世界的な危機は、我々の活動についてもあらためて考え直すきっかけとなりました。人々の活動がリアルな場からネット上へ移行してく中で、我々の提供するサービスがより多くの方々に使われるようになったという事実はあります。そのこと自体は、我々の活動がより多くの方々のお役に立てているという意味では、ありがたいことです。一方で、たとえばこれまではネットショップをやってこられなかったような高齢の方々からもお引き合いをいただく機会が増えたことで、我々のミッションのさらなる遂行を身にしみて感じている昨今でもあります。

つまりこういうことなのではないかと思っています。インターネット上でのアウトプットというのは、自己表現によるアウトプットをする人々だけが行うことではないのであると。すなわち、より多くのひと(すべてのひとといってもいいかもしれません)が自己実現をするのに欠かせないものに本格的になってきたのではないかと思うのです。もちろんネットが当たり前になって久しいというのは、広く知られた事実です。しかし、コロナ禍におけるデジタル化の急速な進展は、その「当たり前」がまだまだ「本当の当たり前」になっていたわけではなかった、いまはまだその入り口であるということをあらためて知らしめたのではないでしょうか。

インターネットというあって当たり前であったはずのものが、人々が生きる上で本質的に重要なものとしてあらためて立ち現れてきたいま、その位置づけを捉え直し我々のサービスについてもあらためて考え直す必要があると思います。それが昨今よくいわれる「デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)」の本来あるべき姿なのではないでしょうか。総務省による「令和元年版 情報通信白書」では、DXとは次のようなことであるといわれています。

「デジタル・トランスフォーメーション」という概念は、スウェーデンの大学教授のエリック・ストルターマンが提唱した概念であるとされ、「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」であるとされる。ICTが人々の生活を良くしていくことについては、従来から主張されていたことであり、産業のあらゆる領域において、「情報化」あるいは「ICTの利活用」というスローガンで進められてきた。それでは、このデジタル・トランスフォーメーションと、従来の情報化/ICT利活用では、何が異なるのだろうか。

最大の違いは、従来の情報化/ICT利活用では、既に確立された産業を前提に、あくまでもその産業の効率化や価値の向上を実現するものであったのに対し、デジタル・トランスフォーメーションにおいては、その産業のビジネスモデル自体を変革していくということである。

総務省「令和元年版 情報通信白書|デジタル・トランスフォーメーション-あらゆる産業にICTが一体化していく」より(強調は筆者による)

すなわち、あると便利だったり効率化したりするというところから一歩も二歩も進んで、デジタル化のもたらすインパクトが変革をもたらし、結果としてなくてはならないものになっていくということなのだろうと理解しています。

そうした観点でペパボが提供してきたサービスを見返した時、人々のアウトプットを支えてきたというのは前述の通りであるとして、さらにはそれぞれの領域においてこれまでずっと、DXを支援してきたとみることもできるでしょう。それが証拠に、「ロリポップ!」を始めとするホスティング事業や、「カラーミーショップ」を始めとするEC支援事業では、この数年間、事業者による利用が増えてきています。また、minneやSUZURIにおいても、クリエイターさんの販路の多様化という意味合いからさらに進んで、そこでの活動を通じて事業の中心としてご活用いただいている事例も増えてきました。そういう意味においても、ペパボの提供するサービスがお客様の生活を支えるものとしてより重要なプラットフォームになってきており、ますます身の引き締まる思いがいたします。

DXとは「魚の釣り方」を支援すること

DXという言葉については、その定義をめぐって巷間喧しく議論がなされていることと承知しています。僕も理事をつとめている一般社団法人 日本CTO協会でこういうものだよという定義もしておりますし、協会の頭脳である広木大地氏が「DX意味わからん。「IT革命」と何が違うの?という話」という記事でわかりやすく解説しているので、そのあたりをご覧いただきたいと思います。ここでは、我々のサービスについて考えるに際して、少し違う観点から述べてみたいと思います。

ペパボのサービスはこれまでもDXを支援してきたのだという話をしました。その時に重要なのは、まずは「魚そのものを支援するのではなく、魚の釣り方を支援する」ことなんじゃないかと思っています。どういうことか。どんなひとにも欲する何物か・何事か、あるいはこうありたいという理想があり、また、それぞれの理想を目指す自己実現の欲求があるのだろうと思います。我々のサービスというのは、それらの欲求そのものや欲している対象、すなわち「魚」にアプローチするのではありません。また、「魚」を釣るための道具(「釣り竿」)を売っているのでもありません。そうではなく、そうした欲求を引き出して、実現を可能にする取り組みを支援していくこと、つまり「魚の釣り方」を支援するというのが我々のサービスのあるべき姿なんだろうと思っています。

具体例に沿ってみていきましょう。たとえばカラーミーショップでは、以前よりメディアサイト「よむよむカラーミー」を精力的に更新している他、特にこの1年はYouTube上のチャンネル「カラーミーショップch. - YouTube」を通じて、ショップ運営の具体的なノウハウをわかりやすく提供しています。前述の通り、コロナ禍においてカラーミーショップを始めとして、ネットショップの開店がかつてない規模で広がっています。ネットショップを開くこと自体は簡単になってきていますが、売れるショップを継続的に維持していくことは大変なことです。先の例でいうと、そこに「魚(=購入してくれる方々)」がいることもわかっていて、「釣り竿(=ネットショップ運営サービス)」を使い継続的に釣果を得られるようになることで、生業(=魚の釣り方)になっていくわけです。

そんなわけで、ネットショップの運営においては、継続的に売れる仕組みを提供することが重要になってきます。カラーミーショップでは日々のサービス改善はもとより、「カラーミーショップアプリストア」を通じて、継続的に売れる仕組みを多くの機能を通じて使えるようなアプリを提供しています。先に述べたメディアを通じての運営支援に加えて、豊富な機能支援を継続的に充実させていくことで、「魚の釣り方」に対する支援を進め、ネットショップを通じた自己実現を支えていければと思っています。コロナ禍の状況に応じて、微力ながらも「カラーミーショップによる事業者さま向け支援策のご案内」という案内も出しています。ぜひご活用いただければと思います。

ネットショップ運営そのものについても、まだまだ改善の余地があるのではないかと思っています。たとえばカラーミーショップでは「納品書印刷(一括印刷)」にある通り納品書に関するお客様のご要望を取り入れることで効率化を図ってきました。このような機能の拡充が、実際のところネットショップを運営されている方々の業務効率をどれだけ改善し、また、業務革新につながっているのかについて、もっと踏み込んで検討していく必要があるのではないかと思っています(そもそも、紙なしで業務がまわるようにする方がいいのではないか?という観点でも)。また、売れるようになってからも、運営を続けていく中でかかる全体としてのコストを最適化できるような価格体系も考慮することが必要になってきます。そのためにも、ネットショップのランニングコストも計算した上でプラットフォームを選択していくことが、末永い活動の実現につながるのではないかと思います。

おわりに―「ネット系」から「テック系」へ

冒頭で紹介したペパボの社長インタビューにおいて、こんな話がさらっと語られています。

組織としても成長しようというタイミング、かつ世の中も大きな変革が起きている今、ペパボは「ネット系企業からテック系企業」に変革しようと取り組みを行なっています。

東証一部企業となったGMOペパボの新たな挑戦とは。2021年の意気込みを社長に聞いてみた - ペパボHRブログ

ここでいわれているのは、僕の解釈するところではこんなことだと思います。インターネットが上記したように、自己表現に加えて自己実現にとって本質的な意味でなくてならないものになってきた中で、「ネット」がより一般的・遍在的なものとしての「テック」になっていく、そういう中で我々のサービスを捉え返し、世の中に新たな価値を提供していくということであると。これまで我々は、「インターネットで可能性をつなげる、ひろげる」をミッションに活動してきました。しかし、コロナ禍が明らかにしたのは、インターネットはまだまだこれからであるということです。そして、もはや「ネット」は特別なものではない遍在的な「テック」になっていく中で、人々の自己実現を支え、アウトプットを増やしていくことが、我々のやるべきことなのだろうという新たな確信を得ています。

そうした展望の中で、これからもどんどんあらわれてくるだろう新しい技術に基づく人々の表現活動を支援し、アウトプットを最大化するサービスを作っていきたいと考えます。これまでのネットを超えた活動としては、VRなどはそのような意味における新技術のその最たるものでしょう。YouTuberのみなさまによるSUZURIのご利用や、ペパボが一昨年来行っているe-sportsの競技者への支援ということも踏まえると、我々もまた、そのような動きにひとつ棹さしているとも思えます。ECについても上述した通りまだまだこれからやることはたくさんありますし、目先を変えると昨年末に「「ロリポップ!レンタルサーバー」、WordPressで作成されたサイトの脆弱性を診断するオプション『WPセキュリティ診断』を11/19(木)より提供開始」としてプレスリリースを出したセキュリティ事業についても、今後ますます重要になってくるでしょう。

「ネット系」から「テック系」へと変わっていくペパボを、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。