Google で開発され、数々のプロジェクトを成功へと導いている「デザインスプリント」。
デザインスプリントを導入して分かった 3 つのメリットと注意点【前編】 では、「デザインスプリント」の特徴と、社内導入するに至った背景をご紹介しました。
この【後編】では、実際に導入して分かったメリットや、気をつけていることをご紹介します。
デザインスプリントの 3 つのメリット
ペパボには、 ハンドメイドマーケットの minne(ミンネ)、 レンタルサーバーのロリポップ!、 ネットショップ運営サービスのカラーミーショップ、 ホームページ作成サービスの Goope(グーペ) など、さまざまなサービスがあり、 各サービスは、いくつかのチームで構成されています。
要望があり、スケジュールが調整できたチームから順次デザインスプリントを実践しているのですが、 何回か行った結果、以下のようなメリットがあると体感できました。
【参考】各チームによるデザインスプリントの様子
ロリポップ! | グーペ(Goope) | カラーミーショップ |
---|---|---|
既存の問題解決 (マネージャー、ディレクター、エンジニア、デザイナー、CS) |
機能の改善 (マネージャー、ディレクター、エンジニア、デザイナー、CS) |
新機能の開発 (プロジェクトオーナー、エンジニア、デザイナー、CS、テスター) |
1. アイデアが出やすい
【前編】 でご紹介した、「締め切り効果」や「個人作業」により、 本当に短時間でそれなりのアイデアが捻り出せました。
終了後のアンケートでも、「効率がよかった!」「集中できたし、楽しかった!」という感想がほとんどでした (同じくらい「めっちゃ疲れた!!」という感想もありました)。
2. チームのコミュニケーションが活性化する
チーム全員で、プロジェクトの進むべき方向を確認しながら進めていくので、 意思疎通がスムーズに行えました。
他にも、 「ブレストではなかなか発言できないけど、フラットに発言できた」 「デザイナー職じゃないから不安だったけど、ちゃんと参加できた」 「チームの一体感を感じることができた」 という感想がありました。
また、エンジニア職の人からは、 「アイデア出しから参加できるので、プロジェクトが "自分ごと" として考えやすかった」 という声もありました。
3. 短期間でアイデアの価値が分かる
導入の初期段階ということもあり、どのチームもプロトタイプの作成時間が 2 時間 〜 半日しか確保できず、 「短時間すぎて厳しいかも」と心配でした。
しかし、結果的にはすべてのチームが時間内にプロトタイプを作成し、ユーザーテストを行うことができました。
この、「アイデアをすぐ形にして、検証ができた」という体験により、 デザインスプリントの有用性を実感した人が多かったようです。
気をつけている 3 つのこと
どんなに便利な道具も、使用方法を誤ると期待した成果が出せません。 「成果が出せない = 役に立たない手法」という評価を下されないためにも、 以下のようなことに気をつけながら導入を進めています。
1. フレームワークの本質を理解すること
デザインスプリントで成果を出すには、フレームワークの手法だけを覚えてもあまり意味はなく、 その本質を理解する必要があります。
例えば、「問題を洗い出す」フェーズの本質は、「分散している課題を抜け漏れなく集める」ことです。 「専門家に聞く」や「SWOT 分析」は、それを行うための手法にすぎません。
多様な職種で構成されていて、必要な知識を持っている人がチーム内にいるのであれば、SWOT 分析である程度の課題が抽出ができます。 もしも、すでに調査データを持っているチームであれば、その共有を行えばいいですし、時間を区切って個人作業で調査するという方法もあります。
このように、本質を理解していれば、適切な手法を選ぶことができるので、成果が出しやすくなります。
2. チームやプロジェクトに合わせて最適化すること
チームの特性やプロジェクトの規模に応じて、ルールやスケジュール、重視するポイントを変更しています。 同時に、「ペパボのデザインスプリント」として、全体のアップデートを行っています。
例えば、スプリント中のスマートフォン禁止、というルールにより、緊急時に連絡が取れなかった、という問題が発生したので、 ペパボでは Slack の通知には気付けるようにルールを変更しました。
その他にも、新しいチームと慣れ親しんだチームとではアイスブレイクの内容を変える、 声の大小がある場合は発言の順番をコントロールするなど、 アンケートと場の空気を読みながら調整を行っています。
3. 導入しやすい環境をつくること
デザインスプリントの導入は、もっとおもしろくするために、もっと生産性をあげるために 行っています。 一度やって終わるのではなく、成果が生み出せそうなポイントをチームに取り入れてもらい、 自然と継続できるようになることで、サービスのユーザー価値を高めたいと思っています。
そのために、物理的にも心理的にも障壁となりそうなものは取り除き、導入しやすい環境づくりを心がけています。 例えば、デザインスプリントに使用する付箋やペンを毎回用意するのが手間だったので、必要な道具を詰めた「スプリントキット」をすべての会議室に設置しました。
また、「思いついたらすぐに実践」できるように、チートシートやカスタマイズ事例のアセット化を進めています。
アプローチ事例
最後に、ペパボで実際に行った、デザインスプリントへのアプローチ事例を 3 つご紹介します。
1. 日数を短縮して行う
5 日間の連続したスケジュールは、思考を途切れさせず一気に作業を進める最良の方法だと思います。 しかし、チームメンバーや会議室の時間を確保するハードルが高いので、日数を 2 〜 3日に縮めて行っています。
日数を縮めると、その分 1 日の作業時間が多くなり、参加者に負担がかかってしまうため、内容や時間の配分を調整して、 よさそうな落とし所を探っています。
すべてのフェーズを連続して行ってもらうのが理想的なのですが、それも難しいケースでは、 ミーティングで何かを決定する時に「投票」を使ってみる、など、「一部分だけ取り入れてみる」ということも行っています。
Design Sprint Kit でも、 2 〜 4 日間で行われたさまざまなデザインスプリントの事例 が紹介されているので、 参考にしてみてください。
2. 開発以外のプロジェクトで行う
最近では、ノベルティの作成など、開発以外の案件でもデザインスプリントを取り入れています。
デザインスプリントの思考プロセスは、モノづくり全般に使える汎用性の高いフレームワークなので、 サービス開発以外にも有用です。
3. 体験型ワークショップを行う
当初は、社内にデザインスプリントの経験者が非常に少なかったため、そのノウハウを学ぶために、 「デザインスプリント ―プロダクトを成功に導く短期集中実践ガイド」の監訳者でもある、 株式会社エクサの安藤幸央さんを講師としてお招きし、体験型のワークショップを行いました。
最近では、チームにデザインスプリントを取り入れるために、まずは手法を体験してみたい、という声も増えてきたので、 希望者による社内勉強会なども計画しています。
まとめ
デザインスプリントは、以下のような問題解決に有効です。
- 会議やチーム開発のコミュニケーションコストが高い
- リリースしたプロジェクトがうまくいかない事が多い
- プロジェクトの進むべき方向が分からない
導入するときには、既存の慣習や文化によって発生する、 さまざまなハードルに気をつける必要があります。
一度ですべてがうまくいく、ということはなく、継続して実践することで、 プロダクトはもちろん、デザインスプリント自体の成果も向上していきます。
もし、既存のやり方に課題を感じている人がいれば、「とりあえずやってみる」ことをおすすめします。 そして、この記事が少しでも導入するときの参考になれば嬉しいです。