Google で開発され、数々のプロジェクトを成功へと導いている「デザインスプリント」。 最速で最大の成果が生み出せるメソッドとして高く評価され、Facebook や Airbnb などの有名企業でも導入されています。
ペパボでもその価値を体験するため、先日発足したデザイン戦略チームを中心に、いくつかのプロジェクトで実際に導入してみました。
この【前編】では、そんな「デザインスプリント」の特徴と、社内導入に至った背景をご紹介します。
デザインスプリントとは
デザインスプリントとは、わずか 5 日間で、価値のあるプロダクトを開発するフレームワークです。
スプリントは大きな問題を解決し、新しいアイデアを試し、より多くのことをより速く成し遂げる道筋になる。 しかもいまより楽しく仕事ができるときたら、試さない理由は何もない。
「SPRINT 最速仕事術――あらゆる仕事がうまくいく最も合理的な方法」 ジェイク・ナップ
デザインスプリントの特徴
デザインスプリントには、以下のような特徴があります。
デザイナーのためのものではない
「デザイン」という名前がついていますが、デザイナーのためのものではありません。 この説明をすると、ほぼ例外なく驚かれるので、「プロジェクトスプリント」と表現したほうが誤解されにくいかもしれません。
デザインスプリントで行う内容は、「デザイナーが実際に手を動かす 前に 考えていること」を分解して、組み替えて、 誰でも効率よく行えるように体系化したものです。
デザイナーの思考プロセスが元となっているだけで、どんな職種でも行えるようになっています。
さまざまな工夫が組み込まれている
また、最速で成果を生み出すために、さまざまな工夫が組み込まれています。
1. ルールによる負担軽減
ルールを設けることにより、感情や好みが生み出すリスクや負担を軽減し、 課題を解決するという作業そのものに集中できるようにしています。
例:
- 決裁権のある人を含め、チーム全員が参加する
- 作業時間を守る
- 職種や等級に関係なく、フラットに話す
- 否定的な発言をしない
- スマートフォンやパソコンの使用は禁止
- 適度にリラックスした状態で行う
2. 時間的制約によるスピード、効率、集中の向上
「スプリント」≒「短距離間を全力疾走」という名の通り、 明確に時間を区切り、短時間でどんどんアウトプットを行うプログラムになっています。
締め切りまで数時間ある場合と、数分しかない場合とでは、作業スピードも集中力も異なるのではないかと思います。 この「締め切り効果」を利用し、短時間でアイデアの拡散と決定を行います。
3. 個人作業によるアイデア発散
集まって作業をする中に、個人で作業する時間と、みんなで作業する時間を交互に設けています。 こうすることで、個人でじっくり(しかし、締め切り効果の中必死で)考えたアイデアを、みんなで共有できます。
個人で作業する時間 | みんなで作業する時間 |
---|---|
4. 共同作業による意思統一
デザインスプリントでは、モノづくりにおけるプロセスをチーム全員で行います。 職種に関係なく、チーム全員で課題に取り組むことで、さまざまな視点からアイデアを考えられます。
結果として、プロジェクトに関するチーム内の意思統一が促進され、全員が納得した上で、効率よく作業を進めることができます。
5. 投票による意思決定
デザインスプリントでは、なにかを決めるときに、「投票」という手法を使います。 公平な評価をもとに意思決定ができるように、声の大小や等級の上下関係などのバイアスがかからないように、工夫された方法になっています。
また、全員が同じドットシールを「自分の意思」として貼ることで、どのアイデアが、どのくらい支持を得ているのか、 ということが一気に「見える化」できます。
【参考】投票により「支持が見える化」された状態
手順が明確化されている
デザインスプリントは、以下の 5 つの段階で構成されています。
- 理解:問題点を洗い出し、課題を決める
- 発散:アイデアを強制的に拡散させる
- 決定:ベストなアイデアを選択し、具体的な解決策に落とし込む
- 施策:アイデアが検証できるプロトタイプを作る
- 検証:テストして、ユーザーの反応から学ぶ
一見「大変そう」に見えるかもしれませんが、やるべきことが構造的に示されているので、 「やり方が分からない」と困ることがなく、手順に従うだけでどんどん作業が進められます。
カスタマイズできる柔軟性がある
手順は明確化されていますが、作業の内容(手法)は、 プロジェクトの目的やチームメンバーの習熟度にあわせて変更しても大丈夫です。
例えば、「問題を洗い出す」フェーズで、Google は「専門家に聞く」を行います。これは、プロジェクトに関する専門家やユーザーにインタビューを行う、という手法なのですが、手法の価値が分からない段階で外部の人を呼ぶのはハードルが高い、と感じる方もいると思います。
ペパボではこのハードルを下げるために、「問題を洗い出す」フェーズでは「SWOT 分析」を利用しています。
この手法は、ペンと付箋があれば「とりあえずやってみる」ことができるので、導入初期の手法としてもおすすめです。
【参考】「SWOT 分析」の様子
このように、プロジェクトやチームにあわせて最適化できる、という柔軟性も、デザインスプリントの優れたポイントです。
導入に至った背景
そもそも「なぜデザインスプリントを導入しようと思ったのか?」について振り返ってみます。
"もっとおもしろく" したかったから
誰にも望まれないプロダクトを作ることほど、悲しいことはありません。 価値のあるおもしろいプロダクトを作って、もっともっと楽しく働きたい。 でも、具体的になにをどうすればいいのか?を考えていました。
生産性をあげたかったから
ペパボは、インターネットの事業会社です。 プロダクトのおもしろさも大事ですが、そのスピードが非常に重要です。 なので、今よりも速いサイクルで開発を回すにはどうすればいいのか?を考えていました。
デザイン戦略チームができたから
もっとおもしろくしたい! もっと生産性をあげたい! と考えてはいたのですが、 サービスに所属して、常に手を動かしているときには、自発的に仕事のやり方を変えることは難しく…というか、 そもそも変えよう、とは思っていなかった気がします。
デザインの横断組織である「デザイン戦略チーム」ができ、所属したことで、すべてのサービスに関わりやすくなり、 みんなのお困りごとも耳に届きやすくなりました(開発プロセスに関すること、プロジェクトの方向性に関すること、etc…)。
解決方法を探る中で、「デザインスプリント」で体系化されている考え方やエッセンスを取り入れてみてはどうか?という話になりました。
また、ペパボには「よさそうならやってみよう!」という文化があり、 社内の一部でデザイン思考のワークショップなどがすでに行われていたことも、「やれるかも!」という後押しになりました。
まとめ
汎用性が高く、短時間で多くの問題が解決できる「デザインスプリント」。 もっとおもしろくするために、もっと生産性をあげるために、ペパボにも導入してみよう! と思いました。
デザインスプリントを導入して分かった 3 つのメリットと注意点【後編】では、実際に導入して分かったメリットや、気をつけていることをご紹介します!